コラム

IT関連の裁判例

ツイッターのリツイートが著作権法上の氏名表示権を侵害する事案

裁判年月日など
最判令和2年7月21日

事案の概要
本件は,写真(以下「本件写真」という。)の著作者であるYが,ツイッターでのリツイートにより本件写真に係るYの氏名表示権(以下「本件氏名表示権」という。)等を侵害されたと主張する事案です。

(1) 写真家であり,本件写真の著作者であるYは,平成21年,本件写真の隅に「©」マーク及び自己の氏名をアルファベット表記した文字等(以下「本件氏名表示部分」という。)を付加した画像(以下「本件写真画像」という。)を自己のウェブサイトに掲載しました。
(2) 平成26年12月,Yに無断で,本件写真画像を複製した画像の掲載を含むツイートが投稿されました。
(3) その後,別の複数アカウントにおいて上記ツイートのリツイートがされました。リツイートされた画像は,本件元画像の上部及び下部がトリミングされた形となっており,そのため,本件氏名表示部分が表示されなくなっています。
(4) 本件各リツイートがされることによって,自動的に,本件元画像ファイルへのリンクを指示する情報及びリンク先の画像の表示の仕方(大きさ,配置等)を指定する情報を記述したHTML等のデータ(以下「本件リンク画像表示データ」という。)が,本件各ウェブページに係るサーバーの記録媒体に記録されます。インターネットを利用してウェブサイトを閲覧する者(以下「ユーザー」という。)が本件各ウェブページにアクセスすると,自動的に,①本件リンク画像表示データが,本件各ウェブページに係るサーバーから同ユーザーの端末に送信され,②これにより,同ユーザーの操作を介することなく,本件元画像のデータ(リンク先のファイルのデータ)が,本件画像ファイル保存用URLに係るサーバーから上記端末に送信され,③上記端末の画面上に当該画像が上記指定に従って表示されます。Xが提供しているツイッターのシステムにおいては,リンク先の画像の表示の仕方に関するHTML等の指定により,リンク先の元の画像とは縦横の大きさが異なる画像やトリミングされた画像が表示されることがあるところ,本件においても,これにより,本件各表示画像は,トリミングされた形で上記端末の画面上に表示され,本件氏名表示部分が表示されなくなりました。

本件の争点とそれに対する裁判所の判断
○争点1.本件各リツイート者は,本件各リツイートによって,著作権侵害となる著作物の利用をしていないから,著作権法19条1項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」をしていない?

裁判所の判断「「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,上記権利に係る著作物の利用によることを要しないと解するのが相当である。
したがって,本件各リツイート者が,本件各リツイートによって,上記権利の侵害となる著作物の利用をしていなくても,本件各ウェブページを閲覧するユーザーの端末の画面上に著作物である本件各表示画像を表示したことは,著作権法19条1項の「著作物の公衆への・・・提示」に当たるということができる。」

○争点2.本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができることから,本件各リツイート者は,本件写真につき「すでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示」(同条2項)しているといえる?

裁判所の判断「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても,本件各表示画像が表示されているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり,本件各ウェブページを閲覧するユーザーは,本件各表示画像をクリックしない限り,著作者名の表示を目にすることはない。また,同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。そうすると,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって,本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである。」

上記の他判決要旨
「本件各リツイート者は,本件各リツイートにより,新たに本件各アカウントの各タイムラインに本件氏名表示部分のない本件各表示画像を表示させ,本件写真についてYがしていた著作者名の表示をしなかった以上,本件氏名表示権を侵害したものといわざるを得ない。」

裁判官による反対意見
「多数意見や原審の判断に従えば,そのようなものであっても,ツイートの主題とは無縁の付随的な画像を含め,あらゆるツイート画像について,これをリツイートしようとする者は,その出所や著作者の同意等について逐一調査,確認しなければならないことになる。私見では,これは,ツイッター利用者に大きな負担を強いるものであるといわざるを得ず,権利侵害の判断を直ちにすることが困難な場合にはリツイート自体を差し控えるほかないことになるなどの事態をもたらしかねない。」

コメント
リツイートが、元画像を機械的にトリミングした画像(これにより氏名表示部分が削除された)を「新たに」表示させる行為であると判断した画期的判例です。この判断によれば、リツイートする者が、著作者人格権の侵害者であることになります。
リツイートは、いわゆるインラインリンクの一種であるため、本判決の射程がインラインリンク一般に及ぶとすると、その影響は多大です。インラインリンクにより画像を表示させる仕様となっているサービスの事業者は、本判決を踏まえて、対応を検討する必要があります。
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