コラム

IT関連の裁判例

広告用文章の創作性が否定された裁判例

裁判年月日など
知財高裁平成23年5月26日付け判決

事案の概要
本件は,Xが,インターネット上に開設するウェブサイトにデータ復旧サービスに関する文章を掲載したYの行為は,主位的に,①Xが創作し,そのウェブサイトに掲載したデータ復旧サービスに関するウェブページのコンテンツ又は広告用文章を無断で複製又は翻案したものであって,Xの著作権(複製権,翻案権,二次的著作物に係る公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害し,又は,著作権法113条6項のみなし侵害に当たると主張して,Yに対し,当該不法行為に基づき,著作権法114条2項,3項の規定による損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに,著作権法115条に基づく謝罪広告の掲載を求め,予備的に,②Yの上記行為は,著作権侵害の不法行為に当たらないとしても,一般不法行為に当たると主張して,Yに対し,当該不法行為に基づき,上記①と同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めるとともに,民法723条に基づく謝罪広告の掲載を求めた事案です。

本件の争点
1.著作権侵害の成否
・Xの主張
文章がごく短くても,俳句のように「何らかの個性」が認められる場合があることはいうまでもない。
表現が「平凡かつありふれたもの」であったとしても,新しい知見に基づく表現である場合や,表現の際,複雑な事項を一般人が理解しやすいように論理を整理し,取り上げるべき事項を取捨選択し,一定の観点から配列し,平易な言葉を選択し,表現するという一連の作業がされている場合には,その作業の過程において作者の相当の精神的活動が行われているのであるから,その表現に「個性」が発揮されていることは明らかである。
そして,創作性とは,作者独自の精神活動の成果として新たな価値を伴う表現物が創作されていると認められるか否かにより判断されるべきものであるから,「新しい知見に基づく表現物」や「従前に同様のものが存しておらず,一定の創意工夫の下に表現されたものと評価し得るもの」には創作性が認められるべきである。

・Yの主張
著作権法が保護の対象とするのは表現された結果としての「著作物」に限定されること,表現過程は第三者が容易に知り得ないことからすると,創作性の有無の判断においては,表現過程を斟酌することは適切ではない。
「よく知られた表現を模倣したり盗用したりした」のでなければ「平凡かつありふれた表現」であっても「創作性」が認められるとすると,格別に工夫された「表現」ではなく,特定の「思想又は感情」あるいは事実を表現すること自体を先行表現者に独占させることになりかねず,不当である。

2.著作者人格権侵害の成否
・Xの主張
「創作性」とは,「ありふれた表現」の「選択」と「組合せ」に存在するものであるから,著作物を殊更細分化した上で,各要素ないし表現について別個独立にそれぞれ創作性を判断すると,個々の表現が「ありふれたもの」となることは必然である。
したがって,創作性の有無は,表現過程と表現自体において個性が発揮されているか否かによって判断されるべきであって,原判決の判断手法は誤りである。
・Yの主張
Xは,ごく短い表現となるまで細分化すると,ありふれた表現になることは明らかであるなどと主張するが,そもそもX文章とY文章との共通点は,その程度のものにすぎない。
また,創作性の判断において,「構成や記述順序」の創作性と個々の文章の創作性とを総合して考察することは,相当ではない。

3.一般不法行為の成否
・Xの主張
YがX文章に依拠してY文章を作成したことは,到底「公正な競争行為」に該当するということはできず,少なくとも一般不法行為に該当するものといわなければならない。
実質的にも,競業他社の企業広告を盗用して広告を作成した場合において,「一般的に使用される言葉」を用い,「広告用文章で広く用いられる一般的な表現手法」によって表現された広告であれば,それが精選された言葉によってサービスを平易かつ簡明にユーザーに訴求する文章について18文にもわたって同業者に盗用されたとしても,何ら違法ではないとされるのであれば,広告にふさわしい最適の言葉と手法で表現すればするほど,「一般的」で「ありふれた」ものとされ,広告文の著作物性が認められなくなるという健全な常識に反する結果となるものである。原判決の判断は明らかに誤りである。

・Yの主張
X文章とY文章との間には共通する部分はあるが,その部分は著作物性がないのみならず,控訴人の知的成果物とすらいえないものである。
原判決は,Y文章は,X文章に依拠して作成されたことがうかがわれると指摘するにとどまり,依拠の事実を認定したわけではないし,YがX文章の全体の2分の1に近い部分を盗用したなどと認定しているものでもない。
一般不法行為も成立しないとした原判決の判断に何らの誤りはない。

争点に対する裁判所の判断
「「創作的」に表現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが,他方,文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が表現されたものとはいえないから,創作的な表現であるということはできない。」
「著作権法は,あくまで表現をその保護の対象とするものであるから,「新しい知見」であるか否かを問わず,単なる事実や思想,アイデアを保護するものではない。データ復旧サービスに関する知見が「新しい知見」であったとしても,当該知見に関する単なる事実や思想等について,ありふれた表現で表現するにすぎない場合や,一般的に使用されるありふれた言葉を選択し,組み合わせたにすぎない場合には,その「選択」と「組合せ」に創作性を認めることはできない。」
「X主張の「オリジナル広告文」が法的保護に値するか否かは,正に著作権法が規定するところであって,当該広告が著作権法によって保護される表現に当たらず,その意味で,ありふれた表現にとどまる以上,これを「オリジナル広告」として,Xが独占的,排他的に使用し得るわけではない。
したがって,YがXのそのような広告と同一ないし類似の広告をしたからといって,Yの広告について著作権侵害が成立しない本件において,著作権以外に控訴人の具体的な権利ないし利益が侵害されたと認められない以上,不法行為が成立する余地はない。」

コメント
近ごろ、商品転売が盛んに行われ、一部問題となっています。
商品転売には様々な問題がありますが、そのうちの一つとして、商品説明文章(広告文章)をそのまま盗用するケースがあり、著作権侵害との主張がされることがあります。
もっとも、本裁判例からすると、多くのケースで著作権侵害にはあたらないということになりますので、実務上の参考として頂ければと思います。
弊所では著作権に関するご相談やご依頼をお受けしておりますので、ご気軽にお問合せください。
お問い合わせフォームはこちら

PAGE TOP