コラム

IT関連の裁判例

アプリの「カテゴリー名」の編集著作物該当性が争われた事例

裁判年月日など
東京地裁 令和2年3月19日付け判決

事案の概要
本件は,Yのアプリが,Xが開発したアプリ(Xアプリ)についてXが有する著作権(複製権,送信可能化権,公衆送信権)を侵害すると主張して,Yアプリの複製,送信可能化又は公衆送信の差止め等を求めた事案です。

・Xアプリの構成,機能等
Xアプリは,LINE@を利用した集客やマーケティングをより効果的に行うためのツールです。XアプリとLINE@は,APIで繋がっており,Xアプリ上で操作をすることによって,同時にLINE@を作動させることが可能です。Xアプリの販売が開始される前にYアプリの販売が開始され,Xアプリは販売されていません。

・Xアプリの表示画面の構成とYアプリの表示画面の構成
Xアプリは,それを購入した者がパソコン等において操作して利用するものであり,パソコン等にはXアプリを利用するための画面が表示されます。Xアプリのパソコン等における表示画面は,4段階の階層構造となっていました。
Yアプリもそれを購入した者がパソコン等において操作して利用するもので,そのパソコン等における表示画面は4段階の階層構造となっているといえるものでありました。

本件の争点(Xアプリの編集著作物該当性)
・Xの主張
Xアプリにおける素材はパソコン画面等で表示される親カテゴリーから小カテゴリーに至る各カテゴリー名であるところ,その選択にも配列にも創作性が認められるから,Xアプリは編集著作物に該当する。Xアプリは,①パソコンの操作に不慣れな者でもLINE@を簡単に利用できるように一画面当たりの機能を一つに絞り,機能表示を階層化し,②キーボードによる入力作業を行うことをできるだけ少なくし,③スマートフォンを使用して社外からでも使用できるように,一画面当たりの表示要素を小さくし,ファイルサイズをできるだけ小さくするという編集方針の下,Xアプリが実現する機能をカテゴリー化した上で,階層化して表示している。Xは,実現しようとする機能との適合性,ユーザーにとっての内容的・視覚的な理解容易性などを踏まえて複数の選択肢の中から各カテゴリー名を選択し,各カテゴリーの配列についても,何段階に階層化するか,各階層を何個に細分化するかについては多数の選択肢の中から選択した。したがって,Xアプリにおける「素材」の選択にも,配列にもXの個性が現れている。

・Yらの主張
XアプリはLINE@を利用した集客,マーケティング支援を目的としたツールであり,そのために多様な機能を具備しているとのことであるが,Xの主張するXアプリの目的やその特徴と,Xが「素材」として主張する各カテゴリー名との間には全く関連性がなく,パソコン画面等で表示される親カテゴリーから小カテゴリーに至る各カテゴリー名は,Xアプリの本質的特徴をなす要素とはいえず,「素材」たり得ない。
Xアプリにおける「素材」の選択又は配列は,同種の機能を有する上記他社アプリのそれを模倣したに過ぎず,Xアプリの「素材」の選択又は配列には創作性は認められないから,Xアプリは編集著作物には該当しない。

争点に対する裁判所の判断
「X商品の各カテゴリー名は,それ自体をみてもありふれたものであり,現に,X商品の「メッセージ」,「統計情報」というカテゴリー名は他社商品でも用いられているほか,X商品の「メッセージ」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名や「統計情報」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名と同一ないし類似したカテゴリー名が他社商品においても用いられている。」
「ユーザーによる操作や理解を容易にするという観点から,実装した機能の中から関連する機能を取りまとめて上位階層のカテゴリーを設定し,機能の重要性や機能同士の関連性に応じて順次下位の階層にカテゴリー分けをしていくというのは通常の手法であり,X商品の各カテゴリー名の配列は,複数の選択肢の中から選択されたものではあるものの,ありふれたものというべきである。」
「X商品は「カテゴリー名」を素材とする編集著作物であるとは認められないし,Xが主張するカテゴリーの名称やその配列について検討しても,その選択又は配列に著作権法上の創作性があるとは認められない。」

*商品=アプリ

コメント
本裁判例は、アプリについて著作権侵害の有無が争われたもので、アプリのカテゴリー名(及びその配列)の(編集)著作物性が争点となりました。
本判決では、カテゴリー名やその配列は「ありふれたもの」であり、著作権法上の創作性があるとは認められないと判示しています。
同種のアプリでは、カテゴリー名なども含めてUIが類似してくるのはやむを得ないところであり、妥当な判決と思われます。
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