コラム

ウェブサービスの利用規約

利用規約の免責条項を無効化するサルベージ条項規制について

はじめに

消費者契約法の改正により、事業者で作成している利用規約のうち、事業者の軽過失により生じた事業者の責任の一部を免除する条項については、軽過失の場合にのみ適用されることを明記することが求められるようになりました。

本コラムでは、改正法に対してどのような注意が必要かについてご説明します。

サルベージ条項とは

消費者契約法では、不当条項規制として、一定の消費者契約の条項を無効とするルールがあります。2023年6月施行の改正消費者契約法において、サルベージ条項についての規制が追加されることになりました。

サルベージ条項とは、本来であれば消費者契約法その他の法令の規定により全部無効となるべき条項に、無効となる範囲(逆に言えば、無効とされない範囲)を限定する趣旨の条項です。

例えば、条項例として以下のようなものが考えられています(第32回消費者契約法専門調査会 資料1「不当条項の類型の追加」第4)。

条項例 4-6
(オンライン上のメールの受取り・保管等のサービスに関する利用規約において用いられている条項)
当社は、当社による本サービスの提供の中断、停止、終了、利用不能又は変更、会員が本サービスに送信したメッセージ又は情報の削除又は消失、会員の登録の抹消、本サービスの利用による登録データの消失又は設備等の故障若しくは損傷、その他本サービスに関して会員が被った損害等につき、理由の如何を問わず、賠償する責任を負わないものとします。(中略)
本規約のいずれかの条項又はその一部が、消費者契約法(平成12年法律第61号)その他の法令等により無効又は執行不能と判断された場合であっても、本規約の残りの規定及び一部が無効又は執行不能と判断された規定の残りの部分は、継続して完全に効力を有するものとします

このようなサルベージ条項は、本来は無効となるべき条項であるにもかかわらず、裁判所が無効の判断をしない限り、どの範囲で無効なのかが不明確です。その結果、損害を受けた消費者がその条項の文言から損害賠償をすることができないと誤解をするおそれがあり、条項が無効となる範囲を隠すことで消費者の権利を制限し又は義務を加重する結果を招くおそれがあると考えられています。

このような背景から、利用規約に免責範囲が不明確なサルベージ条項が無効化されることとなりました。

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
(第1条ないし第2条は中略)

3 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。

利用規約の中の免責条項がサルベージ条項と見なされた場合、その免責条項が丸ごと無効化されることになります。すると、本来であれば、事業者に認められたはずの軽過失による損害賠償の免責の効果すら得られなくなってしまうことになるため、サルベージ条項と見なされないために“軽過失の場合にのみ適用すること”の明記が重要となります。

おわりに

事業者としては、消費者からの責任追求を回避する根拠とするため、あえてこのようなサルベージ条項を置き、会社が本来負うべき責任を限定しようとすることが考えられますが、免責範囲が不明確なサルベージ条項は無効化されますので、今一度免責条項を見直し、場合によっては修正が必要となります。

差止の対象となると、対応やコストがかかるほか、適格消費者団体のウェブサイトで公表されるほか、消費者庁のウェブサイトでも随時公表されるため、事業者のレピュテーションリスクにもつながりますので、利用規約の表現には注意が必要です。

 

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