はじめに
2020年4月1日に施行された改正民法により、準委任契約に「成果完成型」が創設されました。これにより、民法上、準委任契約には「成果完成型」と「履行割合型」の2つがあることになりました。
これ以降、準委任のシステム開発契約では、契約の法的性質が「成果完成型」「履行割合型」のいずれかを明記することが増えてきています。
それでは、ベンダにとっては、「成果完成型」と「履行割合型」のどちらが有利なのでしょうか?
*上記は、契約書締結の段階で、準委任契約であることを前提に、どちらの「型」が有利かの議論となります。契約上で明記していなかった場合に、業務委託契約が「請負」「準委任」のいずれとなるかについては、「システム開発が準委任契約とされた5つの判断要素」をご確認ください。
違いは2つ
「成果完成型」と「履行割合型」が異なるのは次の2点です。以下、それぞれ確認します。
1) 報酬の支払時期
2) ユーザの責任以外で業務が完成しなかった場合に報酬請求できるか
報酬の支払時期
報酬の支払い時期は、「型」ごとに次のとおりとなります。
「成果完成型」→成果の引渡しと同時(648条の2第1項)
「履行割合型」→委任事務を履行した後(648条2項)
システム開発であれば、例えば、契約で定めた成果(要件定義書、外部設計書など)の納品時に報酬を支払うのが「成果完成型」、納品とは関係なく月毎に報酬を支払うのが「履行割合型」のイメージです。
業務が完成しなかった場合の報酬請求
ユーザの責任以外で業務が完成しなかった場合に報酬を請求できるかは、「型」ごとに次のとおりとなります(ユーザの責任で業務が完成しなかった場合には、当然に報酬全額の請求ができます(536条2項))。
「成果完成型」→完成した可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは当該利益の割合に応じた部分報酬(634条、648条の2第2項)
「履行割合型」→既履行の割合に応じた報酬(648条3項)
システム開発であれば、例えば、仕掛品(中間成果物)の価値に応じて報酬を支払うのが「成果完成型」、仕掛品(中間成果物)とは関係なく既に実施した作業の割合に応じて報酬を支払うのが「履行割合型」となります。
どちらがベンダに有利?
報酬の支払時期や業務が完成しなかった場合の報酬請求の可否は、実務上、契約書に具体的条項として挿入されることが一般的です。
このため、現実的には、委任契約の「型」(「成果完成型」か「履行割合型」か)により請求可否等が左右されるケースは多くないと思われます。
この点、ベンダとしては、成果完成型だと未完成の場合に報酬請求がしにくい(「完成していないから支払わない」との主張をユーザから受けやすい)ため、履行割合型を希望する傾向が高いといえます。
もっとも、上記のとおり委任契約の「型」よりも、具体的条項の記載が優先されますので、契約書上で「型」をどちらと記入するかはそこまで重要ではありません。
むしろ、交渉上は、「型」を妥協してでも、上記の2点(特に業務が完成しなかった場合の報酬請求の可否)に関する具体的契約条項で有利な内容を勝ち取ることが重要です。
おわりに
以上のとおり、準委任契約の「成果完成型」と「履行割合型」とでは、ベンダにとっては、「履行割合型」の方が有利とはいえます。
しかし、委任契約の「型」よりも、契約書上で具体的な条項が定められていればそちらが優先されて適用されますので、「型」の議論には深入りせず、具体的条項中でより有利な内容を勝ち取ることが重要です。
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