裁判年月日など
東京地裁平成14年4月15日付け判決
事案の概要
本件は,ホームページ上の掲示板に文章を書き込んだXらが,同文章の一部を複製(転載)して書籍を作成し,これを出版等したYらに対し,Yらの同行為は,Xらがホームページ上の掲示板に書き込んだ文章についてXらの有する著作権を侵害するとして,上記書籍の出版等の差止め及び損害賠償金の支払等を求めた事案です。
本件の争点(X各記述部分には、著作物性があるか)
・Xの主張
X各記述部分は、Xらの思想又は感情を創作的に表現したものであるから、著作物性が認められる。
・Yの主張
本件掲示板に書き込まれた文章は、事実の報告又は感想にすぎず、思想又は感情を表現したということはできない。また、その表現もありふれた平凡なものであり創作性は極めて乏しい。
また、上記文章は、質問と回答が組み合わさって初めて情報としての価値が生ずるものであり、質問、回答単独では情報としての価値がない。したがって、個々の文章は単独では著作物性が認められない。
本件掲示板への書き込みは匿名ですることも可能であるが、匿名で書き込みをした者は、自らが書き込んだ文章に対して責任を負うことはないのであるから、X各記述についての著作権を認める必要はない。
争点に対する裁判所の判断
「X各記述部分は、その表現及び内容に照らして、(略)X各記述部分を除いたその余の部分については、筆者の個性が発揮されたものとして、「思想又は感情を創作的に表現したもの」といえるから、著作物性が認められる。」
「Yは、X各記述は、それらに対応する質問又は回答と組み合わさって初めて価値が生ずるものであり、単独では価値がないから、X各記述には著作物性が認められない旨主張する。しかし、言語の作品について、情報としての価値があるか否かは、思想及び感情の創作的表現であるか否かの判断に影響を与えるものということはできないから、同Yらの上記主張は失当である。」
「Yは、本件掲示板への書き込みは匿名ですることも可能であるが、匿名で書き込みをした者は、自らが書き込んだ文章に対して責任を負うことはないのであるから、上記文章についての著作権を認める合理性はない旨主張する。匿名による著作物の公表であっても、著作物性を肯定する妨げにならないことは、著作権法上明らかであるから、同Yの上記主張は失当である。」
「インターネットにおける掲示板上に書き込んだ投稿文章であっても、著作物性の成否に関する前記の判断基準に何ら消長を来すものではない。」
コメント
本件掲示板は、旅行関連の質問・回答等が書き込まれるものでしたが、判決別紙で摘示されている書き込みは、確認できる限り、いずれも300字を超え、長いものでは1000字を超えており、著作物性が肯定されるのも当然といえます。
他方で、「原告各記述部分のうち、以下の部分は、①文章が比較的短く、表現方法に創意工夫をする余地がないもの、②ただ単に事実を説明、紹介したものであって、他の表現が想定できないもの、③具体的な表現が極めてありふれたもの、として筆者の個性が発揮されていないから、創作性を否定すべきである。」として著作物性を否定された書き込みも相当数あり、書き込みの全てに著作物性が認められたわけではないことにも注意が必要です。
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