コラム

IT関連の裁判例

想像図や定義の著作物性が争われた事例

裁判年月日など
東京地裁 平成6年4月25日付け判決

事案の概要
本件は,多年城郭の研究に携わり,日本及び海外の城につき幾多の書物,評論を発表してきている研究者であるX1と,歴史,民族,美術等の分野を中心とする教養図書の出版,販売会社であるX2が,通信教育用資料の製作,出版及び図書の通信販売を行っているYに対して,Y書籍に掲載された城の図面及び著作者人格権と同図面及び城の定義が,X書籍の著作権を侵害するとして,Yに対して,それぞれ損害賠償請求をした事案です。

○Xらの権利
・X1は,昭和53年頃,本件図面を,イラストレーターの助力を得て創作し,これらの著作権を取得している。
・X1は,昭和47年頃,城を定義した文(本件定義)を創作し,その著作権を取得している。X2は,昭和52年,X1から,本件図面及び本件定義を含む「城」についての総合的な解説書「A」を出版した。
・本件図面は,いずれもX1のこれまでの城郭についての研究成果を図面の形として表した独創的な作品で,本件定義は,X1の30年間の日本の城の研究成果及び15年間の世界の城の研究成果を総合して,昭和47年に初めて公表したものであり,それ以前もそれ以後も,X1以外に城の定義をした者は皆無である。
・X1は,昭和45年頃,多大の労力を費やして,日本の各地の城につき,その城に触れた小説その他の資料を整理し,資料一覧表(本件一覧表)を創作し,その著作権を取得している。

本件の争点
【本件定義及び本件一覧性の著作物性,本件図面についての著作権侵害及び出版権侵害の有無について】

・Xの主張
Yは,平成3年9月頃から,書籍(Y書籍)を作成し,その著作者となったうえ発行し,これを販売している。
Y書籍に掲載されている図面は,それぞれ本件図面と酷似しており,本件図面の複製物であって,X1の本件図面についての著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害するとともに,X2の右各図面についての出版権を侵害するものである。
Y書面に掲載されている城を定義した文(Y定義)は,本件定義とほぼ同一であり,かつ,誤った変更をしており,本件定義の複製物であって,X1の著作権を侵害するとともに,X1の著者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害し,かつ,X2の本件定義についての出版権を侵害するものである。
Y書籍に掲載されている資料一覧表(Y一覧表)は,X1の本件一覧表についての著作権を侵害する。
Y書籍は,通信教育の一環のごとく装いながら,購入者に対し,「城郭考証士」なるあやしげな称号の付与をちらつかせるといった方法で販売されている物であり,X1の学者としての名誉,声望を著しく損う方法によりXの著作物を利用した点でも,X1の著作者人格権を侵害するものでもある。
Y書籍の企画はYが行い,その完成品をYの名前のみで販売し,かつ豪華な執筆陣による政策と銘打っている以上,YはY書籍に著作権法違反がないかにつき相当の注意を払うのが当然であり,Yには,複製権,出版権の侵害につき注意を怠った過失または未必の故意がある。

・Yの主張
Y図面に対応する本件図面については遺跡,遺物,考古学等によって公知性があり,著作者らの創造性,独占性はない。
本件定義のうち,城が一区画の土地に設けられ,その選定にあたっては,住居,軍事,政治目的をもって行われることは公知の事実であり,Xの独創性は全くない。城が防御目的であることも公知の事実であり,攻撃的なものはめったにない。
本件一覧表に記載されている参考作品,参考文献は公知の著作物であり,本件一覧表はその配列に創作性があるにすぎない。
Yは,通信講座の完成までに1年余りの調査をしたほか,古代の城から近世の城郭までの紹介をするため,全国の市町村,博物館,教育委員会,観光協会から資料の提供を受け,これらをもとに作成したものであって,X書籍とは全く別個独立の異なった構成,内容である。
本件定義は人工的なものに限定しているが,Y定義は,自然を利用した城もあることから,かっこ書きで人工的及び自然的の両方を上げている点及びY定義は本件定義と異なっている。Y一覧表は本件一覧表の選択,配列とは全く別個のものとなっている。

争点に対する裁判所の判断
「本件図面1ないし8は、いずれも、歴史上の建物、集落、各種のチャシ、城の建設工事等を概念的に描いた想像図であり、そこには作者の歴史学、考古学等についての学識に基づいて、描かれた対象の特徴をわかりやすく表現する創意が看取でき、著作物と認めることができる。」
「本件定義は、Xが長年の調査研究によって到達した、城の学問的研究のための基礎としての城の概念の不可欠の特性を簡潔に言語で記述したものであり、Xの学問的思想そのものと認められる。」
「学問的思想としての本件定義は、それが新規なものであれば、学術研究の分野において、いわゆるプライオリティを有するものとして慣行に従って尊重されることがあるのは別として、これを著作権の対象となる著作物として著作権者に専有させることは著作権法の予定したところではない。」
「江戸時代以降、主として明治時代から現代までの多様なジャンルの、しかも文芸作品の中から、日本の実在の城、架空の城を舞台とするもの二一七個を作者名と共に選択し、これを舞台となった城ごとに分類、配列し、これを城の所在地によって概ね北から南の順に配列し、我国における城と文芸作品との関係を一見して分かりやすくまとめた一覧表とした本件一覧表は、編集物であって、その素材の選択及び配列によって創作性を有するものと認められるから、本件一覧表は著作物と認められる。」
「Y図面1ないし8と、本件図面1ないし8と対比すると、ハイライト版の網の用い方の差に起因する輪郭線の鮮明さの違いがあるけれども、具体的な構図、内容は微細な点を除けば極めて似ているものであり、しかも、本件図面1ないし8は学問的知識に基づいて概念的に作成された想像図であるから、Y図面は本件図面と関係なく作成されたものが偶然に本件図面と似たものとはとうてい解することができず、Y図面1ないし8は、それぞれ、本件図面1ないし8に依拠して作成されたものと推認することができる。」

コメント
ブログやSNSにより、一般の人が様々なコンテンツをインターネットにアップロードすることができるようになりました。
このため、アップロードするコンテンツが著作物にあたるか否かで迷うこともあります。
本裁判では、学問的な「定義」については著作物性が否定され、想像図である「図面」や「一覧表」については著作物性を肯定しており、いかなるものについて著作物性が認められるかの判断の参考になります。

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