コラム

IT関連の裁判例

史跡を紹介する地図について一部著作物性が認められた事例

裁判年月日など
東京地裁平成13年1月23日付け判決

事案の概要
本件は,Xが,Yらに対して,Xの著作物である書籍及び原稿について,Yらが無断でその一部を複製し,Yらが発行する書籍中に使用したと主張して,著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示件及び同一性保持権)侵害を理由とする損害賠償等を求めている事案です。

Xは,歴史研究サークルを主催する歴史研究者であるところ,平成7年12月,新選組に関する史実や歴史人物に関する記述に自己の感想を付して,史跡・資料館等(以下,「史跡」)巡りという点を通して従前のガイドブックには紹介されていなかった史跡も含めて紹介した書籍を著作し,出版しました。
Y会社は,図書の出版,編集,制作受託及び販売を業とする株式会社であり,Y書籍の発行所です。Yは,右当時Y会社の代表取締役を務めていた者であり,Y書籍の発行人です。
平成10年4月20日,XとYらは面談し,Y書籍の作成に当たりX著作物1を少なくとも参照すること,Xが史跡に関する原稿を執筆してY書籍に掲載することなどを合意しました。
平成10年10月10日,Yらは,X著作物1を少なくとも参照し,かつ,史跡に関してXの執筆した原稿(「X著作物2」)を,Y書籍の一部に使用してY書籍を作成・編集し,出版しました。

本件の争点
1.Yらによる原告著作物の著作権(複製権)侵害の有無
・Xの主張
Y書籍の各記述部分は,X著作物1の記述部分と全く同一又はほとんど同一の内容,表現であり,X著作物1の複製である。このことは,Xが取材した後Y書籍が出版されるまでの間に状況が変化した史跡があるにもかかわらず,Y書籍はこの変化に全く触れておらず,結果として変化後の写真を掲載しながら文章は変化前のままという矛盾を呈していることからも,明らかである。
Xは,Yらに対して,X著作物1の複製を許諾したことはない。Xが被告らに許諾したのは,Y書籍を作成するに当たって,X著作物1を参考にすることだけである。

・Yの主張
X著作物1が全体として著作物性を有するものであることは認める。しかし,そのことは,X著作物1のうちの個々の部分がすべて著作物性を有することを直ちに意味するものではない。本件のように,記述の内容が史実や史跡への順路のように客観的事実を簡略化した説明である場合には,単なる事実情報として創作物とはいえない記述が含まれている。
Xの主張は,このような検討抜きに,X著作物1の記述すべてに著作物性があるとして,Yによる部分利用がすべて著作権侵害であると主張するものであるが,失当である。
Y書籍における地図及び美術の著作物は,いずれもX著作物一と同一の場所を対象としているが,その表現形式において独自の考慮に基づいて表現されているから,Y書籍における地図及び美術の著作物は,X著作物一の地図及び美術の著作物とは全く別の著作物であって,複製とはいえない。
X著作物1の記述をY書籍に使用することについては,事前にXによる許諾があった。

2.著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)侵害の有無について
・Xの主張
Xは,X著作物1,2(「X各著作物」)の著作者であるから,著作者人格権である氏名表示権及び同一性保持権を有する。ところがYらは,前記の行為により、X各著作物と同一性のあるY書籍をあたかもYらの著作に係るかのように表示してXの氏名表示権を侵害するとともに、X著作物一を改変して同一性保持権を侵害した。
・Yの主張
争う。

争点に対する裁判所の判断
「一般に、地図は、地形や土地の利用状況等を所定の記号等を用いて客観的に表現するものであって、個性的表現の余地が少なく、文学、音楽、造形美術上の著作に比して創作性を認め得る余地が少ないのが通例である。それでも、記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては、地図作成者の個性、学識、経験、現地調査の程度等が重要な役割を果たし得るものであるから、なおそこに創作性が表われ得るものということができる。そして、地図の著作物性は、右記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して、判断すべきものである。
そこで、原告著作物一に掲げられた地図について検討すると、例えば対照表五三頁記載の「竜源寺」の地図では、全体の構成は、現実の地形や建物の位置関係がそのようになっている以上、これ以外の形にはなり得ないと考えられるが、読者が最も関心があると思われる「近藤勇胸像」や「近藤勇と理心流の碑」等を、実物に近い形にしながら適宜省略し、デフォルメした形で記載した点には創作性が認められ、この点が同地図の本質的特徴をなしているから、著作物性を認めることができる。他方、たとえば同五六頁記載の「関田家及び大長寺周辺」の地図などは、既存の地図を基に、史跡やバス停留所の名前を記入したという以外には、さしたる変容を加えていないので、特段の創作性は認められない。」
「記述された内容が事実として同一であることは当然にあり得るものであるし、場合によっては記述された事実の内容が同一であるのみならず、具体的な表現も、部分的に同一ないし類似となることがあり得ると考えられる。しかしながら、右のようにほとんど一字一句同じというのであるから、単に対象とする史跡や史実等が同じということが、このような同一性を生じた原因と解するのは相当でなく、YらがX著作物一をそのまま模倣したことによるものと認めざるを得ない。」
「Yらが、X著作物一をいわば「丸写し」にすることについて、Xが許諾したと誤信したとしても、(略)Xが容易に同意しないものと考えられ、かつXの姿勢がそのことをうかがわせるものであったのにY書籍を発行したのであるから、Yらには、X著作物一の著作権を侵害することにつき、少なくとも過失があったというべきである。」
「Yらは、X著作物一を、無断で複製してY書籍を発行し、Yらの著作物のように表示したものであるから、Xの氏名表示権を侵害したものであるうえ、X著作物一をY書籍に取り込んで、改変を加えて発行したものであるから、Xの同一性保持権をも侵害したものであるということができる。」

コメント
対象物の特殊性(地図)から、創作性を認めうる余地が少ないとしつつ、情報の取捨選択や表示方法に関して創作性が表れうるとして、創作性が認められる場合を具体的に指摘しています。
ブログ等に多い商品紹介の記事についても同様の状況があり得ますので、創作性の有無を検討するのに参考になる裁判例です。
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