裁判年月日など
東京高裁令和2年1月16日付け判決
事案の概要
ユーザ企業であるX(及びその親会社)は、ベンダ企業であるYとの間で,事業用基幹システムに係る新しいシステムの開発(以下「本件システム開発」という。)について,請負契約(追加契約又は変更契約を含む。)を締結し,Yは本件システム開発の業務を行いましたが,定められた納期に完成することができず,Xが上記請負契約を解除しました。
本件本訴は,Xが,上記解除はYの履行遅滞による債務不履行解除であると主張して,Yに対し,損害賠償を求めたものです。
本件反訴は,Yが,上記履行遅滞は,XがYに大量の契約範囲外の作業を行わせ,開発方針の不合理な変更を繰り返し,開発に必要な協力をしなかったなどの事情によるのであり,Yの責めに帰すべき事由によるものではないとして、損害倍等を求めた事案です。
原審は,Xの本訴請求の一部を認容し,Yの反訴請求をいずれも棄却したため,X及びYがそれぞれ控訴を提起しました。
本件の主要な争点
本件システム開発に係る業務が遅延した原因
争点に対する裁判所の判断
「(ウ) しかし,前記認定事実によれば,(中略)一審原告からは,コアシステムをどのようなものとし,TCOMとTNCのうちどの部分をどのように個別化し,どのような画面構成とするかについて,具体的な仕様は示されなかったことが認められる。さらに,これ以外の点についても,新要件定義書1.0においては,一審原告の要求により新たにTNC債権管理機能が要件として記載されたこと,新要件定義書1.0の完成後,一審原告は統計・カスタマツールの機能を汎用管理台帳の形でシステムに組み込むよう要求し,そのため,一審被告は新要件定義書1.0で整理した業務フローを見直す作業をせざるを得なくなり,その結果,作成済みの基本設計書の全ての項目の見直しを行い,基本設計工程が大きく停滞したこと,また,一審原告が示した上記業務フローについては内容が確定していないものがあったため,これを整理して取り込む新要件定義書1.1の作成作業を行ったこと,さらに,一審原告は,コアシステムを第3のシステムとして構築することを求めたため,一審被告は一定の協力をせざるを得ず,作業が混乱したこと,平成22年11月・12月の段階でキャリア提供ADSLサービスの精査作業を行ったところ,それまで提出を受けていた資料が古いものであったことが判明し,一審被告は作成済みの基本設計書についても項目面の見直しをせざるを得なくなったこと,一審被告は,一審原告から,サービス項目精査の作業をすることを求められ,これに対応するため,画面設計が一旦中断したこと,以上の事実が認められる。」
「以上の事情によれば,前記(ウ)において説示した一審原告の要求ないし対応のため,一審被告は,本来行うべき作業が遅滞し,また,基本設計の作業を進めることができず,その結果として,本件システムに係る基本設計の作業を定められた納期に合わせて進めることができなかったというべきであり,本件一審被告業務の履行遅滞について,一審被告の責めに帰すべき事由によるものではなかったと認められる。」
コメント
一般的に、ユーザはシステム開発の知見に乏しいため、ベンダ側にプロジェクトをマネジメントしていくことが期待されています。
もっとも、本件のように、ユーザが、決定すべき点を決定せず、後だしで要求を追加するなどが多発すれば、やはり開発遅延がベンダの責任ではないと判断されることになります。
原審と判断が分かれていることからも分かるように、開発遅延の責任がどちらにあるかは微妙なことが多く、本件のようにユーザの責任が認められることもありますので、ユーザとしても、システム開発への適切な協力(とその記録・保存)が必要です。
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