コラム

IT関連の裁判例

写真の一部削除・文字追加が同一性保持権の侵害にあたるとされた事例

裁判年月日など

東京地裁 平成11年3月26日付け判決

事案の概要

Xは,鯨・イルカ等の野生の海洋生物を対象とする写真撮影,ルポルタージュの執筆等を業とする写真家・科学ジャーナリストである。Yらは,書籍の出版・販売等を目的とする株式会社(Y2は同社の代表者)である。
Yらは、雑誌の特集記事において、Xの写真を多数複製して掲載したが、その際、写真(本件写真)の上下又は左右を一部切除(トリミング)したり、写真に文字を重ねて本件写真を掲載した。 本裁判は、Xが、Yらのこれらの行為について、著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)侵害を主張した事案です。

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本件の争点

【Yらが本件写真を本件雑誌に掲載したのは,Xが本件写真について有する同一性保持権を侵害する行為に当たるかどうか】

Xの主張

トリミングによる同一性保持権の侵害について:Yらは,本件写真をそのまま複製せず,Xの意に反して本件写真の上下・左右を切除して本件雑誌に掲載しており,これにより,Xの同一性保持権を侵害した。
写真に文字を重ねることによる同一性保持権の侵害について:Yらは,本件写真に文字を重ねて掲載した。これらの文字によって本件写真のかなりの部分が切除されたから,Yらは,本件写真の同一性保持権を侵害した。
CD-ROMから紙媒体に転用したことに伴う同一性保持権の侵害
Yらは「A」に収録された本件写真のデジタル情報を抽出して本件雑誌に印刷することにより,Xの意に反して,その質を低下させ,本件写真についての同一性保持権を侵害した。

Yらの主張

Yらが,本件写真の上下または左右を一部切除して本件雑誌に掲載したことは認めるが,それは,いずれも作品の同一性,創作性に影響を与えるものではない。
本件写真に文字を重ねて掲載したことは認める。
Yらは,本件写真の掲載につき,出版社の承諾を得ており,CD-ROMの画像データを紙媒体に転用することについても同社の承諾を得ている。

争点に対する裁判所の判断

「上下又は左右の一部が切除されたことにより各写真の本来の構図が明らかに変更されており、これによって著作者の制作意図に沿わないものとなっていることが認められるから、右切除は著作者の人格的利益を害することがないとは認められない。」

「Yらが別紙写真切除目録記載のとおり、本件写真に文字を重ねて掲載したことは、Xが本件写真(略)について有する同一性保持権を侵害する。」

「本件写真をディスプレイ上に映した映像と本件雑誌に掲載された写真を対比すると、媒体が異なることから両者は全く同一であるとはいえないものの、本件雑誌の写真は本件写真をかなり忠実に再現しており、本件雑誌の写真がディスプレイ上の映像よりも特に質的に劣るとも認められないから、本件写真をCD-ROMから紙媒体に転用したことが、同一性保持権の侵害になるということはできない。」

コメント

本判決では、写真について上下左右のトリミングや文字を重ねたことについて著作者人格権侵害を認めた一方で、異なる媒体への転用については、「忠実に再現して」いることを前提に、著作者人格権侵害は認めませんでした。
画像を商用利用する(HPに掲載するなど)場合に、一定のトリミングをしたり、文字を重ねるなどの改変を伴う場合は少なくありません。この程度の改変でも権利侵害となることがあることに注意し、契約で適切に対応しておくことが必要です。

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