裁判年月日など
さいたま地裁 令和2年2月5日付け判決
事案の概要
本件は,消費者契約法(法)13条1項所定の適格消費者団体であるXが,Yが不特定かつ多数の消費者との間でポータルサイト「モバゲー」に関するサービス提供契約(本件契約)を締結するに当たり,法8条1項に規定する消費者契約の条項に該当する条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い,又は行うおそれがあると主張して,Yに対し,法12条3項に基づき,契約の申込み又は承諾の意思表示の停止を求めるとともに,これらの行為の停止又は予防に必要な措置として,上記意思表示を行うための事務を行わないことをYの従業員らに指示するよう求めた事案です。
*法8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
1項 次に掲げる消費者契約の条項は,無効とする。
1号 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し,又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
3号 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し,又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
本件の争点
【1】(本件規約7条3項の法8条1項1号及び3号該当性)
本件規約(抜粋)
7条(モバゲー会員規約の違反等について)
1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合,当社は,当社の定める期間,本サービスの利用を認めないこと,又は,モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし,この場合も当社が受領した料金を返還しません。
a 会員登録申込みの際の個人情報登録,及びモバゲー会員となった後の個人情報変更において,その内容に虚偽や不正があった場合,または重複した会員登録があった場合
b 本サービスを利用せずに1年以上が経過した場合
c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合
d 本規約及び個別規約に違反した場合
e その他,モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合
2項 当社が会員資格を取り消したモバゲー会員は再入会することはできません。
3項 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても,当社は,一切損害を賠償しません。
・Xの主張
本件規約7条1項は,モバゲー会員が同項各号に該当した場合,Yの定める期間,モバゲー内で会員に提供する一切のサービスの利用を認めない旨(利用停止措置)や,モバゲー会員の会員資格を取り消すことができる旨(会員資格取消措置)を定めているところ,本件規約7条3項は,Yにより会員資格取消措置等がとられた場合に係る規定であり,同条1項c号(「他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合」)及びe号(「その他,モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合」)は,「当社が判断した場合」という文言が用いられていることから,Yが上記各号該当性の判断を誤って同項に基づく会員資格取消措置等をとることがあり得る。そうすると,同条3項は,Yが故意又は過失による誤った判断により会員資格取消措置等をとった場合であっても適用される免責条項であるということになるから,同条3項は,事業者の債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項として法8条1項1号及び3号の各前段所定の条項に該当する。
・Yの主張
本件規約7条1項各号違反を根拠として同項に基づく会員資格取消措置等をとることは,Yとモバゲー会員との合意に基づきYが権利を有するものであり,Yが権利を行使したことにより,モバゲー会員に損害が生じても,Yが責任を負うものではないことは当然であり,本件規約7条3項は,Yが債務を負うものではないことを確認的に規定するものであって,Yの損害賠償責任の免責を定めるものではない。仮に,Yの誤った判断によりYが会員資格取消措置等をとった場合には,本件規約7条1項の適用自体が誤りということになり,会員資格の取消し等はされず,本件規約7条3項の適用もないことになる。すなわち,本件規約7条3項は,Yが本件規約7条1項c号又はe号について故意又は過失により誤った判断をした場合には適用されないから,事業者の債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項として法8条1項1号前段及び同項3号前段に該当しない。
【2】(本件規約12条4項の法8条1項1号及び3号該当性)
本件規約12条4項 本規約において当社の責任について規定していない場合で,当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合,当社は,1万円を上限として賠償します。
・Xの主張
本件規約12条4項は,「本規約において当社の責任について規定していない場合で,当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合,当社は,1万円を上限として賠償します。」と規定しており,本件規約において個別に責任を規定している場合を除外している点が,本件規約7条3項が被告の免責を規定している内容となっていることとの関係において,不当条項となる。すなわち,本件規約12条4項は,本件規約7条3項で定めたケースについて損害賠償を負わない旨を内容とする規定であり,本件規定7条1項が誤って適用された場合に,本件規約7条3項によって免責されることを追認する趣旨の規定である。したがって,本件規約12条4項は,その前段部分「本規約において当社の責任について規定していない場合」について,消費者契約法8条1項1号及び3号の各前段に該当する。
・Yの主張
本件規約12条4項は,被告の損害賠償責任について上限額を定めた規定であり,「本規約において当社の責任について規定していない場合」の損害賠償責任を完全に免責する趣旨は含まれておらず,そもそも法8条1項1号及び3号の適用の前提を欠く。
争点に対する裁判所の判断
【1】「本件規約7条3項は,同条1項c号又はe号との関係において,その文言から読み取ることができる意味内容が,著しく明確性を欠き,契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められるところ,Yは,当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれ,それにより,同条3項が,免責条項として機能することになると認められる。
したがって,法12条3項の適用上,本件規約7条3項は,「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たり,また,「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たるから,法8条1項1号及び3号の各前段に該当するというべきである。」
「法12条3項の適用上,本件規約7条3項は,法8条1項1号及び3号の各前段に該当するところ,(略)Yは,不特定かつ多数の消費者との間で本件規約7条3項を含む「消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれ」(法12条3項)があると認められる。」
【2】「本件規約12条4項は,Yの責めに帰すべき事由がある場合の債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を,1万円を上限として賠償する旨を規定した条項であるところ,同項が「本規約において当社の責任について規定していない場合で」と明示しているからことからすれば,同項は,本件規約7条3項により免責がされる場合とは独立して,責任の全部の免除をすることができることを規定しているものではないことは明らかである。」
「本件規約12条4項は,「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し」又は「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」することを内容とする条項ではないから,法8条1項1号及び3項の各前段に該当しない。」
コメント
本件は、利用規約の免責条項について、消費者契約法違反が問われた裁判例です。
モバゲー規約の免責条項は、利用規約としては比較的スタンダードなものであり、下級審判決ではありますが、実務に与える影響は大きいといえます。
従前、多様なユーザーに対応するための手段として「〇〇と当社が判断した場合」と定めることは少なくなかったといえますが、今後は、このような規定については、そのメリット・デメリットを踏まえて、慎重に判断する必要があります。
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