コラム

IT関連の裁判例

芸能人のプライバシー権はどこまで保護されるか?

裁判年月日など

神戸地裁尼崎支部平成9年2月12日付判決

事案の概要

本件は、宝塚歌劇団のスターであるXらが、Y会社の発行した「タカラヅカおっかけマップ」の書籍(以下、「本件書籍」といいます。)がXらの私事にわたる情報を記述し、またプライベートな姿写真を掲載しており、私的生活の平穏が害されあるいは害されるおそれがあるとして、プライバシーの権利、肖像権を被保全権利として、本件書籍の出版等の禁止を求めた事案です。

本件書籍には、Xらの生年月日、血液型、身長、出身地、出身校、入団年、初舞台、趣味、特技、性格、受賞歴、好きなもの欄の記述に続いて、十数行にわたってXらの横顔、スターとしての特性、能力等を評し、一部の者に関しては家業や資産にもふれ、またXらの一部に関しては、住所を表示し、最寄り駅から住所への道順を地図で示したうえ、その写真まで掲載していました。

本件の争点

芸能人のプライバシー権はどこまで保護されるか?

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争点に対する裁判所の判断

各X個人の住居情報の部分を除くその余の記述の範囲及び程度のものは、著名な芸能人に関しては一般の芸能関係の情報雑誌でも紹介を行っているところであり、Xらが宝塚歌劇団のスターであって、生年月日、趣味、嗜好等がひろく諸雑誌等で紹介されることが一面ではXらの周知、人気の上昇、保特に役立つ事柄であるともいえるのであって、右記述部分がXらのもっぱら私的に属する事柄をみだりに公開し、プライバシーを侵害したものとまでは言い難い。
しかし、有名スターないしタレントといえども、平穏に私的生活を送るうえでみだりに個人としての住居情報を他人によって公表されない利益を有し、この利益はプライバシーの権利の一環として法的保護が与えられるべきところ、本件書籍を出版することによる前記各債権者についての住居情報を本人の承諾なくして出版により公開することは、当該Xのプライバシーの権利を侵害するものというべきである。Yらの芸能人のプライバシー権の範囲の制限、表現の自由等の主張は、個人の住居情報に関しては採用できない。

コメント

類似の裁判例として、東京高裁平成18年4月26日付判決 の「モーニング娘。」に所属する芸能人やテレビコマーシャル、テレビ番組等に出演しているタレントらの写真を掲載する雑誌を発行した出版社らにつきタレントに対するプライバシー侵害の不法行為が認められた事例があります。
芸能人であるAらが、路上を通行中等の姿を撮影した写真や芸能人になる前の写真、実家の所在地等に関する写真及び記述が掲載された雑誌の出版社らBに対し、プライバシー権等を侵害すると主張し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。

この事例では、Aの実家の所在地等に関する最寄り駅、通学した中学校、商店街、実家の店構え等の写真や記述が掲載されていました。

これについて、裁判所は、実家の写真等を掲載することは、「Aの芸能活動に関する正当な紹介や批評に該当するとは認められないものであり,Aのファンにとって,その実家を知り,尋ねてみたいという欲求に応える内容であり,この記事により一部の熱烈なファンがAの実家周辺を訪れ,Aのプライバシー権を侵害する行動に出るやも知れないことは,容易に予測できることであ」ると評価しています。

芸能人という立場上、生年月日、趣味、嗜好等が紹介されることは、本人にとって周知、人気の上昇、保特に役立つ事柄であるともいえるのであって、プライバシー権侵害にはあたらないことがあります。また、公表された事実が社会の正当な関心事である場合には、公表が正当であると判断がなされる可能性があります。

しかしながら、芸能人であっても、「平穏に私的生活を送るうえでみだりに個人としての住居情報を他人によって公表されない利益を有し」、住所等が公開されることは、プライバシー権侵害にあたるとされています。
弊所ではプライバシー権に関するご相談やご依頼もお受けしておりますので、ご気軽にお問合せください。

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