はじめに
アパレル商品では、サンプル品やB級品といっても十分に使用できるものが多く、これらを正規品よりもディスカウントして販売することは広く行われています。
他方で、店舗の倒産や従業員の持ち出しなどによって、本来販売するはずではなかったサンプル品、B級品が流通してしまうことがあります。
メーカーとしては、このような流通に対して、商標権侵害を理由に差止や損害賠償を求めることができるでしょうか。
典型的な商標権侵害との違い
典型的な商標権侵害は、第三者が、勝手に偽物に登録商標(「NIKE」など)を付けるケースです。
これに対して、先ほどのケースでは、商標自体は権利者自身が商品に付けており、その意味では「偽物」ではありません。
しかし、本来販売するはずではなかった低クオリティの商品が流通することで、その商標のブランド力が下がってしまうおそれがあります。
裁判例
この点、裁判例では、販売予定のないサンプル品、廃棄予定のキズ物等を不正に入手し販売した行為について、「商標権者の意思に基づいて流通過程に置かれたとはいえない」ことを理由に商標権侵害を認めたものがあります。
大阪地裁平成7年7月11日判決
被告商品は,いずれもワイズグループが製造し,適法に被告使用標章を付したものではあるが,被告商品のうち,本件サンプル品を含むサンプル品及び本件キズ物を含むキズ物は,当初から原告の意思に基づいて流通過程に置かれたものとは認められず,その他の相当数の商品は,いったんは原告の意思に基づいて流通過程に置かれたものの,回収されて本件旧品の一部として廃棄処分の対象となったものであり,その後再び原告の意思に基づいて流通過程に置かれたものと認めるに足りる証拠はないから,結局,被告が被告商品のうち相当数の本件サンプル品を含むサンプル品,本件キズ物を含むキズ物,本件旧品をゼンモール外2,3社にいったん売却し消費者に小売りした行為は,適法とはいえず,原告の別紙第一物件目録一,三及び六記載の商標に係る商標権を侵害する不法行為を構成するものといわなければならない。
本判決の検討
本判決は、下級審判決(最高裁判決ではない)であり、またこの判決の判断枠組みを踏襲した裁判例も見当たらないことから、この判断枠組みについては、ある程度慎重に受けとめる必要があります。
また、判決中では、サンプル品やキズ物の管理体制(コンピュータ登録され、廃棄処分されていた等)について詳細な事実認定をしていますので、「相当な管理体制を敷いていたのにその意思に反して流通した」と認定できることが必要と考えられます(本件では、犯罪的な方法で商品が流出していたことも大きいといえます)。
おわりに
以上のように、サンプル品、B級品の流出は、「商標権者の意思に基づいて流通過程に置かれたとはいえない」場合には、商標権侵害にあたり、差止や損害賠償請求の対象となりえます。
もっとも、前提として相当な管理体制がしかれていたことが必要と考えられますので、差止や損害賠償請求を求めるに際しては、この点について十分な検証が必要です。
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