コラム

IT関連の裁判例

リワード広告で意図的な順位上昇が請負目的に適合するとした事例

裁判年月日など
東京地裁 平成30年1月22日付け判決

事案の概要
XはYからアプリに関するリワード広告の運用を受託し、その報酬については成果報酬制(アプリのダウンロード件数に単価を乗じて報酬が決まる)とされていました。XがYに対し、予定されていたダウンロード件数を達成したとして報酬請求したところ、Yはこれを拒否したため、Xが提訴しています。

本件の争点【本件請負契約の内容】
・Xの主張
本件請負契約の目的は,リワード広告を通じて本件アプリのダウンロード件数として5万件を達成するということにあり,リワード広告を利用すること以外にその方法等についての限定や指定はされていない。リワード広告の性格上,リワードのみに関心があり,対象アプリに全く興味がないユーザーがいてもそれ自体は問題とならないし,機械的操作が含まれるとしても,ポイント獲得を目的とするダウンロードがされ,その件数が達成される限り,結果的に本件アプリの注目度が上がり,リワードによらないユーザーのダウンロード数の増加が見込まれるのであり,契約の目的は達成されることとなる。
5万件のダウンロードが達成したかどうかは,アプリ広告効果測定ツールである「FOX」を用いることが合意されており,これは,Yが選定したものである。FOXによる達成件数は,同一ユーザーによる重複カウントが含まれることがあるが,それ自体は,わずかな数値であるし,そのような誤差程度の重複は,本件請負契約において許容されている。
Xは,本件請負契約において,Yに対し,アップストア内の順位の上昇や上昇した順位が一定期間維持されることまで保証しておらず,それ自体は契約の目的ではない。

・Yの主張
本件請負契約の目的は,リワード広告を手段として5万件のダウンロード達成である。リワード広告は,ポイントの獲得を期待するユーザーによるダウンロード数の増加を見込み,その結果としてのアプリの知名度の上昇により,さらなるダウンロード数の増加を期待できるから,当然、本件請負契約においては,ポイントの獲得を目的とするユーザー自身が自らの手によりダウンロードすることを前提としているが,一部の広告業者が機械的に大量のダウンロードを行う技術を用いて組織的にアプリのダウンロードを行う手法やリワード広告と似て非なる「中華ブースト」などの手法(中国で日本のApple IDを割り振ったiPhoneを複数台用意したり,複数台のiPhoneをPCと接続し,機械的にIPアドレスを変更したりして,アプリの大量ダウンロードを行う手法)といった,機械的な不正操作によるダウンロードは,ポイントの獲得目的すなわちリワードとは無関係な不正操作であって,本件請負契約においては許容されていない。
不正操作は,ユーザーが本件アプリのゲームユーザーとして残ることが期待できず,現に,本件アプリの順位上昇は,最高でも16位にとどまり,原告が説明していた上位10位内には達しなかったし,不正操作を許容することは,人為的操作による順位の上昇を禁じたアップストアの規約に抵触し,配信停止のおそれすらある。
達成件数の測定に関して,FOXによると明確に合意した事実はない。

争点に対する裁判所の判断
「 (1) そこで,検討すると,本件請負契約の内容すなわちXが完成させるべき仕事の内容としては,(略)当初,Xが,リワード広告を通じ,すなわちリワード広告により付与されるポイントの獲得を目的とするユーザーに働きかけて,本件アプリのダウンロード件数について4万件を達成すること(1件当たりの単価50円),その後にダウンロード件数を1万件追加すること(1件当たりの単価30円)を合意したことが認められる。そして,達成すべきダウンロード件数の判定に当たっては,(略)FOXによる旨合意していることも認められる。
(2) なお,Yが主張する不正操作が本件請負契約において許容されているかどうか,すなわち,Yが主張する,ポイントの獲得を目的とせずに直接ランキングを上昇させるような「中華ブースト」などの手法によりダウンロード件数を達成することは,もとより,上記(1)のリワード広告を通じたダウンロード件数の達成ということと相容れないものであることはいうまでもないが,他方,リワード広告の効果を通じてダウンロード件数を達成し,これによりアプリの注目度を上げて自然流入を促すという本件請負契約の目的(この点は当事者間に争いがない。)に照らせば,リワードを目的とするユーザーが機械的にIPアドレスを変更するなどして,二重,三重にポイントの獲得を目的とする行為まで明確に排除されているとはいえず,そのような意味での機械的操作自体は許容されているものと解さざるを得ない。
(3) なお,Yは,不正操作については本件請負契約における仕事の完成の手段としては認められていない旨主張する。この点について,上記(2)のとおり,ポイントの獲得を目的としない第三者による不正な操作を排除するという趣旨であるならば,Yの主張のとおりと理解できるが,他方,ポイントの獲得を目的とする機械的操作である限り,それ自体は,本件請負契約がリワード広告を通じたダウンロード件数の達成という趣旨に反せず,許容されているものといわざるを得ない。また,Yが,機械的操作を許容することは本件アプリのゲームユーザーとして残ることが期待できないことになると主張する点も,リワード広告の性格上,当該アプリに関心を示さない,ポイントの獲得のみを目的とするダウンロードは当然許容されるのであって,この点に関するYの主張は採用できない。
また,Yは,人為的操作による順位の上昇を禁じたアップストアの規約に照らして,機械的操作を許容するはずがないと主張しているが,(略)Xは,メールにおいて,Yに対し,明確に「リジェクトの際の責任」すなわち規約違反の責任を負いかねると伝えており,AがBに対して,規約違反の可能性について説明していたと認められること【なお,Bは,「リジェクト」の趣旨について,順位が上がらないということであると述べるが(Y代表者本人20頁),(略)順位保証ができない旨やランキングが上がらない場合もFOXでの請求となる旨別途記載されていたことに鑑みると,「リジェクト」とは,文字通り,規約違反による解除などを意味すると解するのが自然であり,この点に関するBの供述は採用できない。】に照らせば,規約違反によるリスクについては,Yも承知していたと考えられ,この点に関するYの主張は採用できない。」

コメント
裁判所は不正操作について「中華ブースト」はNGであるものの「機械的にIPアドレスを変更するなどして、二重、三重にポイントの獲得を目的とする行為」は排除されていないと判断しました。
一般的には、アップストアの規約に反する後者のような不正操作もNGと考えられますが、本件では、XがYに対して「規約違反の可能性について説明していたと認められる」ため、特にそのような手法も契約上認容されていたことを前提としているものと思われます。
発注者側としては、リワード広告を委託する際に、不正行為による成果は排除されることを明確にしておく必要があったといえ、実務上の参考になります。
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