コラム

資金決済法/資金移動業

ICOと資金決済法

ICOとは
ICOとは、Initial Coin Offeringの略で、仮想通貨を使う資金調達方法の一種です。まずICOによって資金調達をしようとする事業者は、新規プロジェクトの立ち上げなどに際し、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨による投資を募ります。そして投資家に対しては、その投資額に応じて、後に一定の価値を持つであろう、トークン(*1)を交付します。これによって、企業は調達した資金を使って事業を進めることができ、一方、投資家はこの事業が成功した場合に、価値の上がったトークンを売却して利益を得ることができるのです。

*1 トークンとしては様々な形態のものが想定されます。市場に置かれたあとはそのまま決済手段として流通していくようなものや、サービス内で各種サービスを受けるために使われるものなどがあります。

ICOに関する問題点
現時点(2017年10月23日時点)で時価総額が世界2位である仮想通貨Ether(イーサリアムの仮想通貨)も、もともとイーサリアムの立ち上げに際して発行されたトークンでした。発売当初に数十円/1ETH(イーサ)であったEtherが現在は数万円/1ETH、発売当時と比べて約1000倍の価値になっているところをみると、ICOによって資金調達しようとしている企業への投資は、非常に大きなリターンを生む可能性を持っているものといえます。
しかし、必ずしもすべてのプロジェクトがうまくいくとは限りません。結果的にトークンが市場価値を持つに至らなかった場合には、投資がすべて無に帰することになります。また、事業者の中には、当初よりトークンを市場に置くつもりなく投資を募り、資金のみを調達しようとする者も少なからずいるところです。このような点を見ると、ICOは非常に大きなリスクを孕んでいるものといえます。

ICOに対する法規制
前記のようなリスクを有するICOですが、現状、日本においてはICOを直接に意識した法律はありません。したがって、ICO一般に適用される形で、これを行う事業者、方法又は遵守するべき義務等を定めたものはないことになります。もっとも、何らの法規制もかからないわけではなく、トークンの態様によっては既存の法律による規制がかかりうることになります。

ICOと資金決済法上の仮想通貨
例えば資金決済法には、仮想通貨についての規定があります。そして、トークンが仮想通貨の定義に当てはまることになれば、トークンを発行する事業者は仮想通貨交換業者として各種の規制を受ける可能性があることになります。仮想通貨の定義については別の回でもう少し細かく触れているところですが、条文上の定めは以下のようになっています(ⅰ、ⅱ等は筆者附番)。
①一号通貨
ⅰ.物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、
ⅱ.不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって(*2)
ⅲ.電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
②二号通貨
ⅰ.不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、
ⅱ.電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
まず、事業者がICOで資金調達をしようとしている段階においては、トークンはそもそも日本その他の国の通貨でなく仮想通貨を対価として交付されます。したがって、トークンはこの段階においては①ⅱを満たさないと解され、一号通貨にあたらないものといえます。また、トークンは一号通貨を対価として交付されるものの、基本的に取引事業者のみを相手方として交換されます。そのため①ⅰを満たさないと解され、二号通貨にあたらないものと考えられます。
以上より、トークンは典型的な形でやり取りされる限りでは仮想通貨にはあたらず、したがって、これを交付するトークンの発行事業者は基本的には仮想通貨交換業者として各種の規制に服することはないものといえます。

ICOと資金決済法上の前払式支払手段
また、資金決済法には前払式支払手段についての規定があります。発行事業者は、トークンが前払式支払手段にあたる場合にも各種の規制に服することとなり得ます。
前払式支払手段についての定義は以下のとおりです。
①資金決済法3条1項1号に定めるもの
ⅰ.証票、電子機器その他の物に記載され、又は電磁的方法により記録される金額に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号であって、
ⅱ.その発行する者又は当該発行する者が指定する者から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの
②法3条1項2号に定めるもの
ⅰ.証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号であって、
ⅱ.発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの
まず、いわゆる対価性の点については、トークンが仮想通貨を対価として発行される以上、満たすものと解されます(①ⅰ及び②ⅰ)。そして、トークンが発行者等のサービス内でサービスを受けるために使うことができるものであった場合には、さらに当該トークンは②ⅰ及び②ⅱも満たし得ることになります。そうすると、トークンは前払式支払手段にあたり得、法律上の一定の場合には、各種の規制に服することになる可能性があります。

*2 金融庁のガイドラインによれば、「不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる」との部分にあたるかの判断に際して「発行者による制限なく、本邦通貨又は外国通貨との交換を行うことができるか」を考慮することが示されています。

おわりに
ICOと既存の法律との関係に関しては、前記のような問題のほか、金融商品取引法上のいわゆる集団投資スキーム(同法2条2項5号)にあたるかという問題もあります。日本でICOを実施するにあたっては、各種の法律との関係でどのようにトークンを設計するか、十分検討することが重要です。
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