はじめに
資金移動業者には、「資金決済に関する法律」に基づき、送金(為替取引)中の資金と同額以上の資産を保全(供託等)する義務があります。この送金(為替取引)中の資金を、資金移動業では「未達債務」といいます。
未達債務の額は、上記のとおり、これと同額以上の金額を供託しなければならないため、その算出方法をどのように設定するかは重要な問題です。
本コラムでは、未達債務の算出方法について、事例を示しつつご説明します。
未達債務の算出方法に関する基本的理解
未達債務の発生・消滅の認識時点は、資金移動業者が自ら定めて、申請書類に記載します。
もっとも、発生・消滅の認識時点については、次のようなルールがあるため注意が必要です(金融庁 事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係 14資金移動業者関係 Ⅰ-2-2-2-1④ 参照)。
<発生>
「未達債務の発生に関しては、遅くとも資金移動業者(その業務委託先を含む)が利用者から資金を受領した時点においては未達債務の発生を認識する必要がある。」
<消滅>
「資金移動業者は、受取人が(中略)、現実に資金を受け取るまでは、送金人に対して債務を負っていることに留意する必要がある。」
消滅時点に関しては、銀行振込によって送金(為替取引)を行う場合、次の点に注意が必要です。
「未達債務の消滅を認識するためには、原則として受取人に対する債務が資金移動業者から当該受取人が預金口座を有する銀行等に移転することが必要であり、資金移動業者が当該受取人が預金口座を有する銀行等に送金指図を行った時点で未達債務の消滅を認識することは適切ではないことに留意すること。なお、資金移動業者が銀行等に対して送金指図を行った後、受取人の預金口座に当該資金が着金するまでの期間として合理的に見積もった期間が経過した時点で、未達債務の消滅を認識することを妨げるものではない。」
つまり、消滅時点は、振込手続が完了した時点ではなく、振込先口座に着金した時点を基準とする必要があるということです。
しかし、振込先口座への「着金」を確認することは一般的に困難であるため、着金までに要する合理的期間の経過をもって未達債務の消滅を認識することになります。
未達債務の消滅の認識時点に関する具体的検討
未達債務と同額以上の金額を供託しなければならないため、送金期間はできる限り短くすること(未達債務の発生の認識は遅く、消滅の認識は早く)が自社のキャッシュフローの点からは重要です。
もっとも、上記のとおり、未達債務の「発生」時期については、資金の受領時点よりも遅くすることはできないため、通常は「消滅」時期の方が検討の余地があります。
この点、振込送金の事例では、着金までの合理的期間の考えを用いて「送金指図を行った日から起算して○営業日が経過した時点」といった定めが見られます。この「合理的期間」をより短く定めようとする場合には、申請に際してその根拠となる資料を提出する必要があります。
他方で、自社サービス内で「資金の受け取り」を確認できる場合には、その受け取り時点とする事例もあります。
おわりに
このように、未達債務の認識については、自社で定められるとはいえ、裁量の幅は狭く、自社に有利に設定するためには法的根拠や根拠資料が必要となります。
そうとはいえ、定め方によっては供託金が大きく変わる可能性もあるため、慎重な対応が求められます。
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