はじめに
雇用管理分野における健康情報の取扱いは、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」として極めて慎重な管理が求められます。本コラムでは、要配慮個人情報の定義と法的枠組み、雇用管理分野における健康情報の具体的な取扱い、そして実務上の留意点や管理体制の構築について解説します。
要配慮個人情報とは
要配慮個人情報は、個人情報保護法第2条第3項において「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するもの」と定義されています。
具体的には、健康診断の結果、病歴、診療記録、調剤記録、障害の事実、医師等による保健指導や診療・調剤の内容などが該当します。
これらの情報は、本人の同意なく取得・利用・第三者提供することが原則として禁止されており、オプトアウトによる第三者提供も認められていません。
要配慮個人情報の取得や第三者提供には、原則として明示的な本人同意が必要であり、例外的に法令に基づく場合や人の生命・身体の保護等、限定的な場合のみ同意なく取得・提供が認められます。
要配慮個人情報の取得・利用・管理に関しては、個人情報保護委員会や厚生労働省が詳細なガイドラインを公表しており、医療・介護分野や健康保険組合等でも同様の厳格な運用が求められています。
取得した要配慮個人情報は、利用目的の達成に必要な範囲内で正確かつ最新の内容に保つ義務があり、利用が不要となった場合は速やかに消去することが求められます。
要配慮個人情報が漏えいした場合には、個人情報保護委員会への報告義務も課されています。
雇用管理分野における健康情報
雇用管理分野で取り扱う健康情報(健康診断の結果、病歴、ストレスチェックの結果、職場復帰面談の記録など)は、そのほとんどが要配慮個人情報に該当します。
事業者は、労働者の健康確保や安全配慮義務の履行のために健康情報を収集・利用することが認められていますが、その範囲は「健康確保に必要な範囲」に限定されます。
健康情報の取得・利用にあたっては、原則として本人の同意が必要であり、利用目的を明確にして本人に通知することが求められます。
但し、労働安全衛生法やその他法令により取得が認められている健康情報については本人の同意は不要です。
労働者からの同意取得は、入社時の誓約書や、健康情報の取扱いに関する社内規程(就業規則)によって行われることが一般的です。
取得した健康情報は、労働者の健康確保に必要な範囲でのみ利用されるべきであり、必要最小限の情報収集・利用が原則です。
詳細な医学的情報を含まないストレスチェックの結果については、産業保健業務従事者以外が取り扱う場合でも、労働者の同意がなければ直接の人事権を有する者に取り扱わせることはできません。
また、間接的に人事担当者が取り扱う場合でも、秘密保持義務の徹底や目的外利用の禁止が求められます。
まとめ
雇用管理分野における健康情報の取扱いは、個人情報保護法上の要配慮個人情報として、極めて高いレベルの配慮と管理が求められます。事業者は、法令やガイドラインに基づき、本人同意の取得、利用目的の明示、安全管理措置、第三者提供の厳格な制限、社内規程の策定・周知など、実務上のポイントを押さえた運用を徹底することが不可欠です。これにより、労働者が不利益な取扱いを受けることなく、安心して健康診断や職場復帰支援を受けられる環境を整備し、企業の法令遵守と信頼性向上につなげることができます。