はじめに
近年、給与の前払いサービスが多くリリースされています。
もっとも、賃金については、労働基準法により「直接払」「全額払」の原則といった厳しいルールが定められています(労働基準法24)。
それでは、給与前払いサービスは、賃金の「直接払」「全額払」の原則に抵触しないのでしょうか?
直接払の原則との関係
直接払の原則は、中間搾取を排除し、労働者本人の手に賃金全額を帰属させるため、労働者本人以外の者に賃金を支払うことを禁止するものです。
給与前払いサービスでは、サービス事業者を介して支払われることで、使用者による直接払いがされたといえるのか、疑念が生じます。
この点、平成18年4月1日付通知「賃金の計算事務等の委託に伴う賃金の支払についての労働基準法上の取扱いについて」において、次の場合は使用者による直接払が確保されており、直接払の原則に違反しないとされています。
1)賃金の計算及び給与データの作成は委託を受けた者が行うが、金融機関等に対する給与データの送付及び口座振込み等の指示は使用者から行われ、かつ、当該口座振込み等
が、使用者自らの管理する使用者の口座から行われるとき
2)賃金の計算、給与データの作成及び金融機関等に対する給与データの送付の事務は委託を受けた者が行うが、当該計算結果の確認及びこれに基づく各労働者への口座振込み等の金融機関等への承認は使用者から行われ、かつ、当該口座振込み等が、使用者の管理する使用者自らの口座から行われるとき
よって、前払いサービス事業者が介在しても、給与振込みが次の2点を充たすのであれば、「直接払い」の原則には抵触しないといえます。
・使用者自ら管理する口座からの振込
・使用者の指示(承認)に基づく振込
全額払の原則との関係
全額払の原則は、労働の対価を残りなく労働者に帰属させるため、控除を禁止するものです。
前払いサービスでは、多くの場合、手数料を利用者の賃金から控除することになるため、全額払いの原則に抵触するのではないか、疑念が生じます。
この点、法令や労使協定に基づいて賃金から一部控除することは認められているため、導入にあたり労使協定を締結し(and/or)個別に同意を得ることで、全額払いの原則への抵触を避けることが考えられます。
もっとも、労使協定に基づけばどのような控除も可能となるわけではなく、控除内容は「事理明白なもの」である必要があります。
よって、控除する「手数料」をどのように定めるかが問題となりますが、「手数料」の定め方について通達等はないため、基本的にはケースバイケースの判断となります。
もっとも、手数料を割合で定めた場合(前払い金額の〇%など)、貸金との比較でも暴利となるおそれがあり、もはや事理明白な「手数料」とはいえないとの評価を受けるおそれもあるため注意が必要です。
また、控除額が大きくなりすぎて、控除後に支払うべき賃金が0円になることも認められません。
実務上の観点
この他、労働者に疑念が生じないよう、振込元が変更することについては適切に周知する必要があります。
おわりに
以上のとおり、適切な手続きと制度設計をすれば、給与前払いサービスは労働基準法に違反するものではありません。もっとも、これらの点に遺漏があれば労働基準法違反ともなりえるサービスであり、また同法違反については行政の監督も厳しいため、慎重な対応が求められます。