コラム

IT関連の裁判例

画像の無断転載について著作権侵害が認められた事例

裁判年月日など
東京地裁 平成30年9月13日付け判決

事案の概要
本件は,イラストレーターであるXが,Yに対し,Xが著作権を有するイラスト3点をYが運営するウェブサイトに掲載した行為は同各イラストについてのXの送信可能化権を侵害するものであると主張して,送信可能化権侵害の不法行為に基づき,損害賠償金及び遅延損害金の支払(99万円及びこれに対する平成26年8月3日から支払済みまで年5分の割合による金員)を求めた事案です。

Xは,「A」という筆名によって,イラストレーターとして活動しており,イラスト3点(本件各イラスト)を,平成26年7月頃,「A(@○○)」というツイッターアカウントで公開しました。
Yは,「aサイト」と題するウェブサイト(本件サイト)の運営に関与し,本件サイトは,主に他のウェブサイトに掲載されている文章や画像を転載するというもので,平成26年7月頃,「A(@○○)」というツイッターアカウントで公開されたイラストを「AさんのTwitterイラストまとめ−A. info」と題するウェブサイト等に掲載しました。
本件サイトでは,平成26年8月3日,「△△」と題する記事(本件記事)が公開され,本件記事の中で,Xの承諾を得ないまま,本件各イラストが転載されていました。

本件の争点
【1】(本件各イラストの著作権者がXであるか否か)
・Xの主張
本件各イラストは「A」名義で公表されたものであり,本件各イラスト内には「@〇〇」というツイッターアカウント名が記載されている。そして,Xは実名でも漫画家として活動し,その旨を「A」名義のウェブサイトで告知している。これらの事情に照らせば,本件各イラストの著作権者がXすなわち「A」であることは明らかである。
・Yの主張
本件各イラストがX自身によって作成されたものであるか否かは明らかでなく,Xにおいて,第三者が作成したイラストをツイッターに掲載することも可能であるから,本件各イラストについて,Xが著作権者であることの立証は不十分である。

【2】(Yが本件記事の投稿について不法行為責任を負うか否か)
・Xの主張
Xが本件サイトのメールフォームを経由して本件サイトの運営者に連絡したところ,その連絡を受けてYがXとの間でメールのやり取りをするなど対外的な折衝を行っていた。本件サイトのドメイン名の保有者はYであり,Yが本件サイトの管理者であることは明らかであるし,仮に,本件サイトの管理に携わる者が他に存在するとしても,構成員間の役割分担として,本件サイトの管理,運営の主たる判断権限及び責任がYにあったというべきであるから,Yは,本件記事の投稿についての不法行為責任を負う。
・Yの主張
Yは,インターネット上で知り合った人物から依頼されて本件サイトを立ち上げたものの,現在では本件サイトのサポートを行うだけであり,本件記事その他の記事の作成及び投稿は一切行っていないし,本件サイトの管理人でもないから,Yは本件記事の投稿について不法行為責任を負わない。

【3】(Xが,ツイッターの利用規約等を根拠として,本件各イラストを本件サイトに掲載することを許可していたといえるか否か)
・Yの主張
平成28年9月30日以降,ツイッターの利用規約において,「ユーザーが本サービスを介して送信,投稿,送信またはそれ以外で閲覧可能としたコンテンツに関して,Twitter,またはその他の企業,組織もしくは個人は,ユーザーに報酬を支払うことなく,当該コンテンツを上記のように追加的に使用できます。」との定めがあり,そこにいう「上記のように追加的に使用」できる場合とは「コンテンツを他の媒体やサービスで配給,放送,配信,プロモーションまたは公表すること」を指す。Xは,本件各イラストをツイッター上に公開した以上,ツイッターの利用規約によって,第三者がXに対して報酬を支払うことなく本件各イラストを他の媒体によって公表等することについて許可していたというべきであるから,YがXの許諾を得ないまま本件各イラストを本件サイトに掲載したとしても,そのことにはXの許可があったというべきである。
・Xの主張
Xは,ツイッター社に対して,利用規約に基づき,本件各イラストに関して一定の条件を前提とした再使用許諾権を含めた使用許諾をしているが,再使用許諾を経ない無断転載を許容するものではない。ツイッターに投稿された画像を第三者が再利用する場合,同社が定める利用条件に従わなければならないのであって,そのような利用条件が満たされた場合にのみ,当該第三者は同社から適法な再利用許諾を受けたことになるが,Yは,そのような条件を満たしていない。

【4】(Xに生じた損害の有無及びその損害額)
・Xの主張
Xは,Yに対し,通常受けるべきライセンス料相当額を損害額として著作権侵害を理由とした損害賠償を請求することができる。Xは,通常の取引ではカラーイラスト1点の1年間のライセンス料として10万円を請求しているところ,本件では本件各イラストが平成26年8月3日から平成29年6月8日までの約2年10月にわたって無断使用されていたのであり,Xは著作物の掲載の許諾を1年単位としているから,少なくとも90万円の損害が認められるべきである。
・Yの主張
本件各イラストは,Xがインターネット上に自ら無料で公開したイラストであるところ,インターネットを利用する者であれば誰でも無料で閲覧することが可能であるし,インターネットの特性として一度公開された情報が転々流通していくことは周知の事実であるから,有償で作成を依頼されたイラストと無料で公開されたイラストの価値を同視すべきではない。また,ツイッターの規約上,第三者は無償で本件各イラストを他の媒体やサービスで公表等することができるとされているから,原告に損害は発生しない。

争点に対する裁判所の判断
【1】「Xは,本件各イラストの著作権者がXであると主張し,その主張に沿う陳述書(略)を提出するところ,(略)本件イラストの著作権者はXであると推認することができる。」
【2】「Yは形式的にも実質的にも本件サイトの運営において重要な役割を担っていたというべきであるから,少なくとも,本件記事の投稿等について共同不法行為に基づく法的責任を負う立場にあったものと認められる。」
【3】「ツイッターの当該規約は,コンテンツ利用に関するツイッター社の条件に従うことを前提として,一定の目的のため,ツイッター社が第三者に対して当該コンテンツを提供することができ,当該第三者が当該コンテンツを使用することができるという趣旨のものであると解されるところ,Yは,ツイッター社が上記規約に基づき本件各イラストをYに提供したことについて具体的な主張,立証をしていない。したがって,Xが,Yに対し,上記規約に基づき本件各イラストを本件サイトに掲載することを許可していたとは認めることはできず,Yの主張は採用することはできない。」
【4】「Xは,Yに対し,送信可能化権侵害の不法行為に基づき著作権法114条3項により本件各イラストの著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害賠償金の支払を求めることができる。」
「本件各イラストは,一つのテーマをめぐる複数の個別のイラストからなり,他人を笑わせる要素も含まれているもので,カラーで描かれた漫画に準じる部分があるとも理解できることや,漫画をウェブサイトに掲載するに当たっては一定の掲載期間を前提とした使用料が定められていることなどの事情を総合的に勘案すれば,Xが本件各イラストの使用に対し受けるべき金額は,イラスト1点につき1年当たり3万円とするのが相当である。」
「本件各イラストは平成26年8月3日から平成29年6月8日まで本件サイトに無断で転載されていた事実が認められることから,Xが本件各イラストの使用に対し受けるべき金額は合計27万円(イラスト1点につき1年当たりの使用料3万円×イラスト3点×掲載期間3年分)となる。」

コメント
本件は、ツイッターで投稿した画像のブログへの無断転載について著作権侵害による損害賠償が認められた事例です。
被告は、ツイッター規約、著作権帰属、ブログ運営などについても主張しており、同種事件の特徴が表れています。
著作権侵害が認められるのは相当と思われますが、認容額は30万円に留まり、権利者側のコストに見合わない結果となった点については、萎縮的効果が心配されます。
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