はじめに
個人情報保護法は、個人データを第三者に提供する際、原則として本人の事前の同意を得ることを義務付けています。
しかし、公益性の観点から、個人情報保護法にはいくつかの例外が設けられています。
特に、学術研究を目的とする場合、一定の要件を満たすことで、本人の同意を得ずに個人データを第三者に提供することが認められています。
このテーマについて相談する
学術研究に関する第三者提供の3つの類型
本人の同意が不要となる学術研究関連の第三者提供は、主に以下の3つの類型に分類されます。
1. 学術研究機関等による成果の公表・教授のための提供(法第27条第1項第5号)
個人情報取扱事業者が大学などの「学術研究機関等」である場合、学術研究の成果を公表したり、講義などで教えたりするためにやむを得ないときは、本人の同意なく個人データを第三者に提供できます。
2. 学術研究機関等による共同研究のための提供(法第27条第1項第6号)
学術研究機関等が、共同で学術研究を行う第三者(相手方が学術研究機関等であるか否かを問わない)に対して、学術研究目的で個人データを提供する必要がある場合も、本人の同意は不要です。この規定は、大学間の共同研究だけでなく、企業と大学が連携する「産学連携」にも活用できます。提供する目的の一部が学術研究目的である場合も含まれます。
3. 学術研究機関等が学術研究目的で提供を受ける場合(法第27条第1項第7号)
提供元が学術研究機関等であるか否かを問わず、提供先が学術研究機関等であり、その機関が個人データを学術研究目的で取り扱う必要がある場合に、本人の同意なく個人データを提供できます。この規定により、一般企業などが保有する個人データを、学術研究のために大学等へ提供することが可能になります。この方法で提供を受けた学術研究機関等は、提供された個人データを学術研究目的であれば、他の利用目的の制限を受けることなく取り扱うことができます。
共同研究における個人データの提供
学術研究機関が関わる共同研究では、当事者の関係性によって適用される条文が異なるため注意が必要です。
・学術研究機関同士の共同研究: A大学がB大学と共同研究を行うために個人データを提供する場合、法第27条第1項第6号が適用されます。
・産学連携による共同研究: 一般企業BがA大学との共同研究のために個人データを提供する場合、法第27条第1項第7号が適用されます。
なお、これらの例外規定に依らずとも、共同利用の要件(共同利用者の範囲や利用目的等を本人に通知等)を満たせば、法第27条第5項第3号の「共同利用」を根拠としてデータを提供することも可能です。
例外規定に共通する制限ー個人の権利利益を不当に侵害するおそれ
上記の3つの例外規定には、いずれも「個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く」という重要な共通の制限が付されています。
この条件に該当する場合、たとえ学術研究目的であっても、本人の同意なく個人データを提供することはできません。
個人の権利利益を不当に侵害するおそれを回避するため、提供者は適切な措置を講じる必要があります。
具体的には、本人または第三者の権利利益を保護する観点から、以下のような対応が望ましいとされています。
・提供する個人データの範囲を、学術研究の目的に照らして必要最小限に限定する。
・仮名化処理など、個人を特定できないようにデータを加工する。
要配慮個人情報との関係
病歴や信条など、特に慎重な取り扱いが求められる「要配慮個人情報」については、さらに厳格なルールが適用されます。
取得の際の本人同意
要配慮個人情報を取得する際は、原則として本人の同意が必要です。しかし、これも以下の場合に例外が認められています。
・学術研究機関等が、学術研究目的で要配慮個人情報を取り扱う必要がある場合(法第20条第2項第5号)。
・学術研究機関等から、共同研究のために学術研究目的で要配慮個人情報を取得する必要がある場合(法第20条第2項第6号)。
これらの場合には、本人の同意なく要配慮個人情報を取得できます。
オプトアウトの禁止
要配慮個人情報は、本人の求めに応じて提供を停止することを前提とした「オプトアウト」による第三者提供は認められていません。
しかし、法第27条第1項第7号に基づき、事業者が学術研究機関等に要配慮個人情報を含むデータを提供する場合、提供先である学術研究機関等は、法第20条第2項の例外規定(5号または6号)が適用されるため、本人の同意なく当該データを取得することが可能です。同様に、学術研究機関等間の共同研究(法第27条第1項第6号)においても、提供先は同意なく要配慮個人情報を取得できます。
おわりに
このように、個人データの提供には学術研究に関わる例外が定められており、その一部は一般企業にも適用があります。
このような例外規定を生かすことで、あらたな個人データの利活用が図れることもありますので、ご検討ください。
当オフィスでは、個人データの利活用に関する相談もお受けしていますので、お気軽にご相談ください。
このテーマについて相談する