コラム

IT関連の裁判例

広告費用の未消化額の取り扱いが争われた裁判

判決の年月日など
東京地裁 平成27年3月27日付け判決

事案の概要
本件は,Xが広告主であるYに準委任契約であるDSPコンサルティング契約に基づく報酬の支払いとして,Xに対し,220万円及び内80万円に対する平成25年9月15日から,内80万円に対する同年10月15日から,内30万円に対する同年11月15日から,内30万円に対する同年12月15日から各支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求めたところ,Yが,Xに対して本契約及び追加契約終了時点でXは月額支払金額と消化額との差額の精算義務を負うと主張した事案です。

XとYとのDSPコンサルティング契約(本契約)の内容は,次のとおりでした。
・サービス 広告情報のウェブサイト配信
・契約期間 6ヶ月
・出稿開始予定日 同年3月4日
・出稿終了予定日 同年9月3日
・月額支払金額 50万円
・支払期日 当月末締め翌々15日払い

Xは,同年3月4日,本契約に基づき,Yの登録した広告情報をウェブサイトに配信するサービスの提供を開始しました。同年5月16日,本契約における月額支払金額を50万円から80万円に増額することとし,新たなDSPコンサルティング契約を締結しました。

XとYとのDSPコンサルティング契約(追加契約)の内容は,次のとおりでした。
・契約期間 6か月
・出稿開始予定日 同年5月16日
・出稿終了予定日 同年11月15日
・月額支払金額 30万円
・支払期日 当月末締め翌々15日払

本契約及び追加契約において,契約期間中の解約は認められず,解約する場合は残りの契約期間の月額上限金額を支払うこととなる旨,契約期間の満了1か月前までに解約書またはメールでの解約申請をしない場合,同条件にて自動更新する旨の定めがあるほか,追加契約において,上記月額支払金額につき固定額万額を各月毎に振り込んでもらうが,未消化分につき次月繰越及び順次次々月の消化とする旨の定めがありました。
しかし,Yは,Xに対し,平成25年5月15日に同年3月分の報酬50万円,同年6月14日に同年4月分の報酬50万円,同年7月12日に同年5月分の報酬80万円,同年8月15日に同年6月分の報酬80万円を支払ったが,以後,Xに対する支払をしていません。
Yが,同年10月11日にXに対して広告出稿の停止を求めたため,Xは,Yの登録した広告情報の配信を停止しました。Xは,同月21日,Yに対し,中途解約に応じ,同年3月から6月の残消化額約45万円を解約金に充当することを前提に,出稿実費及び解約金の支払を求めましたが,これをYは応諾しませんでした。

本件の争点(Xが,残消化額を精算する義務を負うか)
・Xの主張
本契約の期間満了時までに残消化額を消化し,残消化額の精算を行わないことを説明しており,Yは,これらを了解して本契約を申し込んでいるから,Xは,残消化額を精算する義務を負わない。
Yは,平成25年10月11日,Xに対し,広告の出稿停止を求めたのみであり,Xとの合意又はXの報告義務の不履行に基づき本契約及び追加契約を解除した事実はない。

・Yの主張
Xから上記の説明を受けておらず,Xとの間でそのような合意はしていない。本契約及び追加契約所定の月額支払金額は,1か月当たりの広告出稿料の予算ないし概算支払額であるから,本契約及び追加契約終了の時点において,残消化額を精算する義務を負う。
Yは,平成25年10月11日,原告との合意又は原告の報告義務の不履行に基づき本契約及び追加契約を解除したのであるから,契約期間中の解約を認めず,解約する場合には残りの契約期間の月額上限金額を支払うこととなる旨の本契約及び追加契約の定めは適用されない。

争点に対する裁判所の判断
「Xは,追加契約においては,Yの要請に基づき,月額支払金額につき固定額万額を各月毎に振り込んでもらうが未消化分につき次月繰越及び順次次々月の消化とする旨の定めを追記したことが認められるから,Yは,遅くとも追加契約を締結した同年5月16日の時点においては,本契約及び追加契約の当月の消化額が当月の月額支払金額及び全月までの残消化額の合計額に満たない場合,残消化額が翌月以降に繰り越されることを認識していたものと認められる。」
「本契約及び追加契約には,Xが本契約及び追加契約の期間満了時までに残消化額を消化しなかった場合を前提とする残消化額の精算の要否についての定めはないが,本契約及び追加契約には,契約期間中に本契約及び追加契約を解約する場合には,残りの契約期間の月額上限金額を支払うこととなる旨の定めがあり,Yが本契約及び追加契約を中途解約した場合には,Yは,Xに対する月額支払金額の支払を免れず,Xは,Yに対して残消化額を精算する義務を負わないものと解される」

コメント
インターネット広告の広告料金に関する裁判例の一つです。中途解約時の、支払済みの広告出稿料の予算(概算支払額)の精算(返金)の要否が争われた裁判で、判決は、「契約期間中に本契約及び追加契約を解約する場合には,残りの契約期間の月額上限金額を支払うこととなる旨の定めがあ」ることを理由に、精算(返金)不要と判断しました。
契約解釈としてはそのとおりですが、広告主から見れば、予算額全額をとられてしまうため、負担感の大きい結論となっています。広告取引では、成果の多寡等により中途で方針を変更したくなることもありますので、広告主としては、契約時に、契約内容を理解し、リスクを適切に評価しておく必要があります。
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