コラム

IT関連の裁判例

他人の氏名を含む商標について争われた裁判例

裁判年月日など
知財高裁 令和2年7月29日付け判決

事案の概要
本件は、Xが「TAKAHIROMIYASHITA TheSoloist.」(「本願商標」)の文字を標準文字で表して成る商標について出願したところ拒絶査定を受け、不服審判請求をしたが請求は成り立たない旨の審決(「本件審決」)がされたので、XがY(特許庁)にその取り消しを求めた事案です。

本件審決の理由の要点
(1) 本願商標の構成のうち「TAKAHIROMIYASHITA」の文字部分(以下「前半部分」ということがある。)は全て欧文字の大文字で一連に書してなり,後半の「TheSoloist.」の文字部分(以下「後半部分」ということがある。)は,親しまれた英語の定冠詞「The」,「独奏者」の意味を有する英単語「Soloist」及びピリオド「.」から成ると容易に理解されるから,本願商標は,「TAKAHIROMIYASHITA」の文字部分と「TheSoloist.」の文字部分を組み合わせた結合商標であると理解される。
そして,前半部分は,無理なく一連にローマ字読みすることができ,「タカヒロミヤシタ」の称呼が自然に生じる。
(2) 我が国では,パスポートやクレジットカードなどに本人の氏名がローマ字表記されるなど,氏名をローマ字表記することは少なくないこと,氏名をローマ字表記する場合に,名,氏の順で記載することが一般的であり,パスポートやクレジットカードのように,全ての文字を欧文字の大文字で記載することも少なくないこと,「ミヤシタ」を読みとする姓氏(「宮下」)及び「タカヒロ」を読みとする名前(「孝大,孝弘,貴弘,隆宏」等)は,日本人にとってありふれた氏名であることが認められる。
(3) 以上によると,本願商標は,その構成のうち「TAKAHIROMIYASHITA」の文字部分が,「ミヤシタ(氏)タカヒロ(名)」を読みとする人の氏名をローマ字表記したものと客観的に把握されるものであるから,人の「氏名」を含む商標であるといえる。
(4) ハローページによると,「ミヤシタ タカヒロ」を読みとすると考えられる「宮下孝洋」,「宮下隆寛」,「宮下貴博」,「宮下孝弘」,「宮下高広」,「宮下高弘」及び「宮下貴浩」といった氏名の者が掲載されていると認められ,これらの氏名の者は,いずれも本願商標の登録出願時から現在まで現存している者であると推認できるところ,これらの氏名の者は原告と他人であると認められ,原告は,上記他人の承諾を得ているものとは認められない。
(5) したがって,本願商標は,その構成のうちに「他人の氏名」を含む商標で,かつ,その他人の承諾を得ているものではないから,商標法4条1項8号に該当する。

判決要旨
「本願商標の構成のうち「TAKAHIROMIYASHITA」の文字部分は,「ミヤシタ(氏)タカヒロ(名)」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものであり,本願商標は「人の氏名」を含む商標であると認められる。」
「本願商標は,その構成のうちに「他人の氏名」を含む商標であって,かつ,上記他人の承諾を得ているとは認められない。したがって,本願商標は,商標法4条1項8号に該当する。」
「ア これに対し,原告は,商標法4条1項8号の「他人」については,承諾を得ないことにより人格権の毀損が客観的に認められるに足りる程度の著名性・希少性等を必要とすると解すべきであると主張する。
しかし,商標法4条1項8号は,自らの承諾なしに,その氏名,名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護するものである(略)ところ,その規定上,「雅号」,「芸名」,「筆名」及び「略称」については,「著名な」という限定が付されている一方で,「他人の氏名」及び「名称」についてはそのような限定が付されていない。同号は,氏名及び名称については著名でなくとも当然にその主体である他人を指すと認識されることから,当該他人の氏名や名称の著名性や希少性等を要件とすることなく,当該他人の人格的利益を保護したものと解される。」

コメント
本判決は、商標法4条1項8号の解釈としては自然であり、首肯せざるをえないものと思われますが、自らの氏名をブランド化することが多いファッション分野のデザイナーにとっては非常に酷な結果といえます。
とはいえ、この争点に関する知財高裁の判断は固まったようにも思われますので、本判決を前提に、ブランディングの段階から工夫をしていく必要があります。
弊所では商標権に関するご相談やご依頼をお受けしておりますので、ご気軽にお問合せください。
お問い合わせフォームはこちら

PAGE TOP