コラム

資金決済法/資金移動業

一方的な送金業務における犯罪収益移転防止法の「顧客等」の考え方

はじめに
犯罪収益移転防止法に基づき、資金移動業者等の「特定事業者」は、取引に際して、顧客等の本人確認を行わなければなりません(4条1項1号)。
それでは、資金移動業者が、一方的に事業者から個人への送金に関与する場合、誰を「顧客等」とみなして本人確認を行うべきでしょうか。

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特定事業者(第二条第二項第四十三号に掲げる特定事業者(第十二条において「弁護士等」という。)を除く。以下同じ。)は、顧客等との間で、別表の上欄に掲げる特定事業者の区分に応じそれぞれ同表の中欄に定める業務(以下「特定業務」という。)のうち同表の下欄に定める取引(次項第二号において「特定取引」といい、同項前段に規定する取引に該当するものを除く。)を行うに際しては、主務省令で定める方法により、当該顧客等について、次の各号(第二条第二項第四十四号から第四十七号までに掲げる特定事業者にあっては、第一号)に掲げる事項の確認を行わなければならない(4条1項1号)。
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顧客等の定義
まず、法律上、「顧客等」は、顧客又はこれに準ずる者として政令で定める者と定義されています(2条3項)。なお、「顧客に準ずる者として政令で定める者」は施行令5条に定められていますが、上記の疑問とは直接関係がありません。
この点、警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課犯罪収益移転防止対策室による「犯罪収益移転防止法の概要」では、「顧客」について次のように説明されています。

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「顧客」とは、特定事業者が特定業務において行う特定取引等の相手方をいい、これに当たるか否かについては、取引を行うに際して取引上の意思決定を行っているのは誰かということと、取引の利益(計算)が実際には誰に帰属するのかということを総合判断して決定されます(令和2年10月1日時点版17頁)。
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すなわち、誰を「顧客」と考えるかについては、1)取引上の意思決定、2)利益(計算)の帰属の2点から総合的に判断するとされているのです。

送金業務における「顧客」
資金移動業者が担う業務の中には、経費精算(雇用主から従業員へ)や代金の返金(サービス提供者から顧客へ)のように、事業者から個人へ一方的に送金することを内容とするものがあります。
このような業務について、上記の判断基準をもとに考えると、
1) 資金移動業者へ送金を依頼するのは「事業者」
2) 送金の原資は「事業者」に帰属する
といえますので、「顧客」は送金依頼人である「事業者」であるといえます。
よって、上記のような業務については、通常、「顧客」とは「事業者」であり、本人確認は「事業者」に対して行えば足ります。
もっとも、「個人」とも利用契約を締結しているなど、業務内容(業態)によっては「個人」も「顧客」と評価すべき場合もあるため、注意が必要です。

おわりに
送金を受ける「個人」については、非常に多数に及ぶ可能性があるため、犯罪収益移転防止法上の本人確認を要するか否かは運用上極めて重要です。
この点、前記のとおり、通常、犯罪収益移転防止法上の「顧客等」は送金依頼人である「事業者」であり、本人確認は「事業者」に対して行えば足ります。
もっとも、業務内容(業態)によっては「個人」も「顧客」と評価すべき場合もあるため、迷う場合には、適切な調査・検討が必要です。
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