コラム

ウェブサービスの利用規約

ユーザーの同意は必須?サブスク契約での値上げの方法を解説

はじめに
アプリやウェブサービスなどのサブスクリプション契約の料金を値上げする場合、利用者の同意は不可欠なのでしょうか?
サブスクリプション契約などにおける自動更新時の料金値上げが、民法第548条の4に定められた「定型約款の変更」の要件を満たすかどうかが問題となります。

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定型約款の変更の要件(民法第548条の4第1項)
サービス提供事業者は、以下のいずれかの要件を満たすことで、相手方の個別の同意なく定型約款を変更できます。
(1)相手方の一般の利益に適合するとき
(2)契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更条項の有無・内容、その他の事情に照らして合理的なものであるとき
加えて、変更の効力発生時期を定め、変更する旨、変更後の内容、効力発生時期をインターネットなどで周知する手続が必要です。

料金値上げは「合理的変更」に該当するか
料金の値上げは、利用者にとって不利益な内容の変更であるため、「相手方の一般の利益に適合する」とは言えません。したがって、定型約款の変更として有効と認められるためには、上記(2)の「合理的な変更」に該当する必要があります。
しかし、経済産業省のガイドラインでは、「料金を引き上げる変更」は合理的ではないと判断されやすい変更の例として挙げられています。契約期間の途中で手数料を引き上げるような変更は、それを正当化する特段の事情がない限り、民法第548条の4の要件を満たすことは難しいと考えられています。

自動更新時の値上げについての見解
それでは、契約期間の途中ではなく、更新のタイミングで値上げする場合はどうでしょうか?
まず、ユーザーが更新手続(オプトイン)をする場合には、その際に、ユーザーの「同意」を取得することができるため問題ありません。
それでは、更新手続がない自動更新契約の場合はどうでしょうか?
自動更新のタイミングで料金を値上げする場合については、以下のような考え方があります。
A 個別の同意が必要とする見解
自動更新時の値上げも契約期間中の場合と同様に、個別に利用者の同意を得る必要があるとする見解があります。
利用者にとって不利な内容で規約を変更するという点では契約期間中の場合と違いはなく、利用者に契約更新の判断の機会を与える必要があるためです。
B 更新契約として扱う見解
一方で、約款の内容を修正しても、その効力を既存顧客との契約期間中に及ぼさず、新規契約時や「更新時」から新たな約款を用いる場合は、民法上の「定型約款の変更」の手続によらず、単に新たな約款で更新契約を締結することができる、という見解もあります。
C 利用規約の変更として扱う見解
また、変更内容に合理性が認められれば、利用規約の変更として有効に値上げが可能という見解もあります。

プラットフォーム事業者の対応
Apple、Googleといったプラットフォーム事業者は、料金値上げについて次のような対応をしています。
いずれも、一定の条件(値上げ幅や値上げの頻度など)の下で、自動更新時に個別の同意を取得することなく値上げをすることを許容しています。

Apple: サブスクリプション登録者の同意を必須とする場合

以下のいずれかに当てはまる場合、サブスクリプションの継続を希望する登録者は次回更新日までに価格の引き上げに同意する必要があります。*同意を求めるメールまたはプッシュ通知がAppleから自動的に送信されます。
・登録者が、価格変更の際に必ず同意が必要な地域に住んでいる場合。
・値上げ幅が現行価格の50%を超え、かつ価格差が年間サブスクリプションの場合は1年あたり50米ドル、その他の場合は1期間あたりおよそ5米ドルを超える場合。米ドル以外の通貨については、現在の為替レートで換算された額が基準となります。この基準額は、税制や為替の変化に伴い随時変更されます。ストアフロントごとの基準額一覧については、こちらをご覧ください。
・過去12か月以内に、同一サブスクリプションの価格をすでに引き上げている場合。

Appleが価格引き上げに対する同意を求める通知やメールを送信するタイミングは、サブスクリプションの期間によって異なります。最低限必要な通知期間が設けられており、週間サブスクリプションは7日、1か月サブスクリプションは27日、1か月を超える期間のサブスクリプションは30日となっています。価格の引き上げが上記期間内に行われた場合、登録者は次の1期分の請求期間は維持価格で更新することができ、当該期間終了時に通知を受け取ります。

Google:値上げする 価格を値上げする場合は、オプトインまたはオプトアウトのいずれかとなります。

オプトインによる値上げ
オプトインによる値上げでは、値上げを有効にする前にユーザーに同意を求める必要があります。同意しないユーザーについては、値上げ後の価格で最初の請求が行われる前に、定期購入が自動的に解約されます。オプトインするまでに少なくとも 30 日間の通知期間がユーザーに与えられるため、次回請求時の価格が据え置きになる場合があります。

オプトアウトの値上げ
場合によって、事前にユーザーに通知はしてもユーザーの同意などは必要とせずに、値上げすることができます。これをオプトアウトの値上げと言います。

ユーザーはそれぞれの都合で、定期購入を解約できます。解約しない場合は、通知期間後の更新時から、新価格で請求されます。この期間は少なくとも 30 日間または 60 日間です(国 / 地域によって異なります)。通知期間があるため、現在の価格で更新されることもあります。

オプトアウトの値上げを適用するには、以下のすべての条件を満たす必要があります。

オプトアウトの値上げは、一部の国や地域でのみ、かつ Google Play で良好な状態にあるデベロッパーのみ可能です。可能な国や地域と、事前通知の最短期間については、こちらのヘルプセンター記事をご覧ください。
オプトアウトの値上げには、頻度と金額の制限もあります。以下の条件は Console UI で適用されます。

オプトアウトの値上げが可能なのは、定期購入の基本プランごとに過去 365 日間に国 / 地域あたり 1 回のみです。
すべての国または地域での値上げ幅の上限は、次のうちの大きい方となります。
ユーザーが現在支払っている価格の 50%
1 日あたり 17 米セント(必要に応じて現地通貨に換算)
オプトアウトの値上げが以下の基準を満たしていることを確認する責任はデベロッパーにあります。オプトアウトの値上げを開始するたびに、Google Play Console で以下を証明する必要があります。

アプリの利用規約で、事前通知による定期購入の値上げを行う権利を留保し、そうした値上げの理由を明確かつ有効な形で提示する必要があります。
値上げが有効になる 30 日以上前に、値上げの影響を受ける各ユーザーに、少なくとも、ユーザーの定期購入の名前、現在の価格と新価格、新価格が自動的に有効になる日付、解約方法に関する情報を記載したアプリ内通知を目立つように表示します。

まとめ
以上のとおり、サブスクリプション契約の値上げについては、原則的に以下のように考えるべきといえます。
・契約期間中の値上げは、ユーザーの同意が必要
・自動更新時の値上げは、一定の条件下では利用規約の変更により対応可能

もっとも、利用者保護の観点からも、更新の判断機会を与えるという意味でも、事前に値上げについて通知し、個別の同意を得ることが最も確実な方法です。
なお、民法第548条の4に抵触しない方法としては、以下のようなものが考えられます。
・契約当初の定型約款に、将来の段階的な料金引き上げと引き上げ後の料金額をあらかじめ具体的に定めておく
・個別の合意に基づいて料金を変更する
具体的なケースで適法に値上げを実施できるかなど、お悩みの際にはお気軽にお問合せください。
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民法548条の4

値上げは、明らかに利用者にとって不利益な内容の変更となるため、利用規約の変更により対応する場合には、変更の必要性、変更後の内容の相当性等の民法548条の4第1項(2)の要件を充たす必要があります。
料金値上げのように利用者に不利益となる変更については、通常の利用者が同意することが合理的に推認できないため、改めて「個別具体的」な同意が必要とされています。

なお、契約期間の定めがなく、将来の契約期間から値上げを行い、かつ顧客が猶予期間内に不利益なく契約を解消できる場合には、合理的な変更と認められることもありますが、この場合でも値上げの必要性や相当性などが厳しく吟味されます。

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自動更新のタイミングでの値上げについても、利用者にとって不利な内容で規約を変更するという意味では契約期間中の場合と違いはなく、個別に利用者の同意を得る必要があるとされています。
サイト利用規約が定型約款に該当しない場合や、民法548条の4が適用されない場合でも、既存契約の条件変更には原則として利用者の同意が必要です。明示的な同意がない場合でも、十分な告知の上で利用者が異議なく利用を継続した場合には黙示的同意が認められる場合もありますが、値上げのような不利益変更では慎重な対応が求められます。

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まとめ
料金の値上げは、原則としてユーザーの個別の同意が必要です。
定型約款の変更による一方的な値上げは、合理性等の厳格な要件を満たさない限り認められません。
特に契約期間中の値上げや、利用者に不利益となる変更の場合は、必ず個別同意を取得することが求められます。

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