はじめに
近年、スマートフォンやウェアラブル端末の普及に伴い、個人の健康管理や増進を目的とした、いわゆる「ヘルスケアプリ」が数多く開発・提供されています。
しかし、これらのアプリの中には、その機能や目的によっては薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)上の「医療機器」に該当し、法的な規制対象となる場合があります。
具体的には、アプリが医療機器に該当する場合には,製造・販売について許認可を受けなければならず、また,厚生労働大臣による指定の有無に応じて,薬機法上の承認又は認証も必要となります。
このように,アプリが医療機器に該当するかは、許認可等の要否の関係で非常に重要です。
このコラムでは、アプリがどのような場合に医療機器と判断されるのか、その基準や具体例について解説します。
医療機器プログラムとは
2013年の薬事法改正(現・薬機法)により、「プログラム及びこれを記録した記録媒体」が医療機器の定義に含まれることになりました。薬機法では、「医療機器」を「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等であって、政令で定めるもの」と定義しています。そして、この「機械器具等」にはプログラムも含まれ、政令(薬機法施行令)では「疾病診断用プログラム」「疾病治療用プログラム」「疾病予防用プログラム」が医療機器として定められています。
したがって、アプリであっても、これらの要件を満たすものは「医療機器プログラム」として薬機法の規制を受けることになります。
医療機器該当性の判断基準
アプリが医療機器に該当するかどうかについては、厚生労働省が公表している「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」で、その判断基準が詳細に示されています。
以下、判断基準の概要を説明します(詳細はガイドラインに記載のとおりです)。
まず、そのアプリの一般的名称を厚生労働省が定める「一般的名称通知」の中から検索し、該当するものがあるかを検討します(類別がプログラムであるもの(一般的名称に「○○プログラム」と掲載されているもの)については、186種類(令和5年1月16日現在)存在するとのことです。 )。該当する場合には、原則として医療機器に該当します。
該当するものがない又はわからない場合には、ガイドライン別紙1「医療機器該当性に係るフローチャート」に従い、医療機器該当性について判定します。
個々の具体的な事例における医薬品医療機器等法の適用につき判然としない場合には、監視指導・麻薬対策課において相談・助言等を行っているので、これを活用することができます。
使用目的と疾病候補の表示
プログラムの医療機器該当性を判断する上で特に重要なのが「使用目的」です。
製品の表示、説明資料、広告、ウェブサイト上の記述などから、そのプログラムが疾病の診断、治療、予防などを目的としていると認められる場合には、医療機器に該当することになります。
また、「医療機器該当性に係るフローチャート」に特徴的な質問項目として「入力情報を基に疾病候補を表示するか」があります。
この質問がYESだと「医療機器」に該当するという判断になるため、この点の検討は重要です。
医療機器に該当する/しないアプリ
ガイドラインでは、医療機器に該当するプログラムとしないプログラムの具体例が示されています。
【医療機器に該当する】
・患者又は医療関係者が入力したデータや検査値データ等から、糖尿病の患者ごとの状態に適合する情報を提示し、独自のアルゴリズムに基づき、個別の食事療法等の診療計画を立案することを支援するプログラム
・患者や健康な人に対して、認知症予防のためのプログラムと訴求するものなど、疾病の治療又は発症若しくは重症化の予防を目的として、使用者が入力した情報等を基に、医学栄養学上公知ではない独自のアルゴリズムにより、個々人に適した食事や運動等に関する提案を行うプログラム(本例の場合、認知症予防が可能な食事又は運動は医学栄養学上確立されていない)
・腕時計型の携帯端末(測定用の汎用センサを有する)にインストールす6 ることで、日常生活における健康状態の管理・体調管理又は医療機関への受診の目安の提示のために血中酸素飽和度、血圧、体温等のバイタルデータを測定、保存、表示するプログラム
【医療機器に該当しない】
・個人の健康記録プログラム。個人の健康状態に関する記録の管理のために、体重計や歩数計等のデータや、医療機器から得られた計測値(体温、血圧、血糖値等)を表示、保管、転送するプログラム
・健康な人の運動におけるトレーニングの効果・効率の向上や運動強度の管理目的に血中酸素飽和度を測定し、記録するプログラム(心不全等の患者の運動療法・リハビリテーションを目的とするものは医療機器に該当する)
・特定の集団のデータに基づき統計処理等により構築したモデルから、入力された検査結果データに基づく糖尿病のような多因子疾患の発症リスクを提示するプログラム(利用者に診断との誤認を与えないものに限る)
まとめ
ヘルスケアプリの開発・提供にあたっては、そのアプリが意図せずして「医療機器」と見なされ、薬機法違反となるリスクを避けるため、開発段階から医療機器該当性を慎重に検討することが極めて重要です。
判断の鍵となるのは、製品が表示・広告等でうたう「使用目的」やリスク、疾病候補の表示などです。
複数の機能を持つアプリの場合、一つでも医療機器に該当する機能があれば、全体として医療機器の規制対象となる点にも注意が必要です。
迷う場合は、専門家へ相談することが推奨されます。
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