コラム

ITと知的財産権

ブランド品のパーツを使用したハンドメイド品販売と商標権侵害

ブランド品パーツを使用したハンドメイド品
ファッションブランドで商品を購入すると、箱にブランドのロゴが入ったリボンがかけられていることがあります。このリボンはブランドの商品そのものではありませんが、これをアクセサリーなどに加工・販売した場合、法律上の問題は生ずるでしょうか。また、着古したブランド衣類を解体して、ロゴやマークの入ったボタンを使ったり、ブランド特有の柄の生地の一部を使ったりして同様のことをした場合はどうでしょうか。
今回は、ブランドのロゴ、マーク、柄のデザインされたパーツ部分を利用してハンドメイド品を作成・販売した場合につき、商標権との関係での問題を検討していきます。

商標権とは
商標権とは、登録を受けた商標について生じる権利のことをいいます。そして商標とは、自己と他者の商品やサービスを見分けるなどするために用いられるしるし等のことを指します。そして、消費者はこの商品に付けられるなどした商標を見ることで「これは〇〇社の製品だ。」「〇〇社の製品であるから品質もいいものだろう。」などと思うわけですが、商標権による保護があることで商標のこのような役割が十分に果たされることになります(*2)。
商標は文字により構成されるものから立体、音により構成されるものまで幅広い分野のものを含むのですが(*1)、典型的なものとしては企業や商品のロゴないしマークがあります。
これをファッションブランドについて見てみると、例えばシャネルに関しては「CHANEL」のロゴだけで数種のものが商標登録されており(登録番号第4964604号等)、ココマークについてもオーソドックスなもののほかいくつかのものについて登録がされています(登録番号第1531366号等)。また、ルイ・ヴィトンについては同じく「LOUIS VUITTON」のロゴについて複数の登録があるほか(登録番号第1374707号等)、モノグラムやダミエといった柄についても登録がなされています(それぞれ登録番号第1448815、4901617号)。

*1 法律上、商標とは「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)」を指します(商標法2条1項柱書)。

*2 この役割を商標の機能といいます。商標の機能には、出所表示機能(商品及びサービスが特定の者から提供されたものであることを示す機能)、品質等保証機能(同じ商標が付された商品及びサービスに関しては同じ品質であるということを示す機能)、広告宣伝機能(商標に一定のイメージがついていくことで、購買意欲を生じさせる等の機能)があります。そして、本質的な機能として、自他商品等識別機能(自身と他者の商品及びサービスを区別して認識させる機能)があります。

商標権の侵害
前記のような登録商標を無断で商品に付して販売するなどすると、販売者の行為は商標の「使用」(商標法2条3項2号)にあたり、原則として商標権を侵害することになります(同法25条本文、*3)。もっとも、商標の「使用」が商標の機能を害すものでないならば、この行為を商標侵害とする理由はありません。法律も、自他商品等識別機能を害しない態様での「使用」については、例外的に商標権侵害にはあたらない旨定めています(商標法26条1項6号参照、*4)。

*3 登録商標の「使用」が商標権侵害となり得るのは、商標を「指定商品又は指定役務」ないし「指定商品若しくは指定役務に類似する商品又は役務」について「使用」する場合に限られます(商標法25条本文、37条1号)。指定商品ないし指定役務(=サービス)とは、商標の登録というものが商標を使う商品ないし役務を指定してなされるものであるところ、この指定された商品ないし役務のことをいいます。例えば、バッグ等に使うロゴなどについては「ハンドバッグ、財布、名刺入れ」などの指定がされています。したがって、「使用」であっても指定商品又は役務に無関係なものについての「使用」であれば、そもそも商標権侵害は起こり得ないことになります。
ブランド品パーツを使ったハンドメイド品の販売についてもこれは同様で、ハンドメイド品に登録商標を付していたとしてもその登録商標の指定商品又は指定役務、ないしはこれに類似する商品又は役務についての「使用」でなければ商標権侵害は起こり得ません。ただし、著名なブランド等は登録商標についてかなり広い範囲を指定商品又は役務としており(上にあげた「CHANEL」のロゴは、香水についてのものから医業の提供にかかるものまで、約1000個の指定商品又は指定役務を掲げています。)、多くの場合に商標権侵害となるものと思われます。

*4 従来、この話は「商標としての使用」ないし「商標的使用」という考え方のなかで議論されていたものです。上記の商標法26条1項6号は、近時になってこれを明文化した規定です。したがって、同号の判断にあたっては、従来の「商標としての使用」ないし「商標的使用」の判例を参考とすることができます。

具体的検討
では具体的に、ブランド品パーツを使ってハンドメイド品を作成・販売する行為は自他商品等識別機能を害するものでしょうか。これについては、ブランド品の柄部分を使う場合と、ブランド品のロゴないしマークを使う場合とで分けて検討していきます。
まず、柄を用いた場合ですが、ルイ・ヴィトン事件(大阪地昭62年3月18日判決)が参考になりそうです。この事件では、ヴィトンのモノグラムのバッグと酷似するバッグを販売した行為が商標権侵害にあたるかに関し、モノグラムの使用が商標的使用にあたるか、すなわち自他商品等識別機能を有するかが問題となりました。そして裁判所は、登録商標であるモノグラムをバッグ全体に模様のように使用したという態様につき、「自他識別機能を有する標章として使用していることが明らか」として商標権侵害となるとの判断をしています。
これをブランド品の柄部分を使ってハンドメイド品を作成・販売する場合について考えてみると、多くの場合は自他商品等識別機能を有する態様での使用といえそうです。なぜなら、裁判例のように商品全体に柄を付さないにしても、あえてブランド品の柄部分を使ってハンドメイドをしている以上、特定のブランド品だとわかるように柄を付していると考えられるからです。

ロゴやマークを使用した場合
次に、ロゴやマークを使った場合はどうでしょうか。これについては、古い裁判例ですがポパイ・アンダーシャツ事件(大阪地昭51年2月24日判決)が参考となりそうです。この事件では「POPYE」との字及びポパイの絵柄のついたアンダーシャツの作成・販売等したことが商標権を侵害するかが問題となったのですが、ここでも商標的使用の有無が問題となりました。そして裁判所は結果的に、この使用には自他識別機能がなく商標的使用がないとして商標権侵害をみとめなかったのですが、判断のなかで以下のように述べています。

丙各標章の現実の使用態様は、右各標章をいずれもアンダーシヤツの胸部中央殆んど全面にわたり大きく、彩色のうえ表現したものである。これはもつぱらその表現の装飾的あるいは意匠的効果である「面白い感じ」、「楽しい感じ」、「可愛いい感じ」などにひかれてその商品の購買意欲を喚起させることを目的として表示せられているものであり、一般顧客は右の効果のゆえに買い求めるものと認められ、右の表示をその表示が附された商品の製造源あるいは出所を知りあるいは確認する「目じるし」と判断するとは到底解せられない。
これに対し、「本来の商標」すなわち、商品の識別標識としての商標は、広告、宣伝的機能、保証的機能をも発揮するが、「本来の商標」の性質から言つて、えり吊りネーム、吊り札、包装袋等に表示されるのが通常である。「本来の商標」がシヤツ等商品の胸部など目立つ位置に附されることがあるが、それが「本来の商標」として使用される限り、世界的著名商標であつても、商品の前面や背部を掩うように大きく表示されることはないのが現状である。

これをみると、付された商標がもっぱらデザインとして役割を果たしている場合や、商品のブランドの表示といえないような箇所に商標が付されている場合(*5)には自他商品等識別機能はなく、商標権の侵害とはならないものと考えられます。
これをブランド品のロゴやマークの付されたもの、例えばラッピング用リボンや取り外したボタンなどを使ってハンドメイド品を作成・販売した場合について考えてみると、多くの場合、自他商品識別機能があるものとして商標権の侵害となるものと思われます。なぜなら多くの場合、ブランドのロゴやマークを付すのはそのロゴのデザインの美しさ等に着目しているのではなく、そのブランド品のものであるかのように見えるからでありますし、また、ロゴやマークを付する位置に関しても、あたかも本物のブランド品であるかのような位置に付していると考えられるからです。

*5 判決がなされた頃とは異なり、現在では商品の前面等にブランド名が表示されるデザインも十分にあり得るものと考えられます。

おわりに
今回の検討はあくまで周辺の裁判例をもとにしたものですが、ECサービスにあたってはこのような点についても十分に注意することが必要です。
弊所では商標権に関するご相談やご依頼をお受けしておりますので、ご気軽にお問合せください。
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