コラム

ITと知的財産権

フリー素材サイトから取得した画像の使用が著作権侵害にあたる場合

「フリー」な素材とは
Webサービスを展開するにあたり、サイト上で写真画像を用いることは少なくありません。
近年では商用利用が可能であり、加えて、良質かつ「フリー」である写真素材を提供するサイトも多く存在しています。
しかし、今使おうとしている「フリー」の写真素材というものが、はたして本当に「フリー」であるのかは、よく確認する必要があります。
今回はこの点について、著作権と絡めつつ触れていきます。

裁判例
今回の題材については、関連する裁判例(東京地裁平成27年4月15日)があります。
この裁判例は、おおまかにいえば、ある法人の従業員が自社のHPの作成をまかされたところ、有料画像等提供サービス上で提供されている写真を無断で使用し、これに関して、写真を撮ったカメラマン、及び、有料画像等サービスを提供している会社が、当該法人に対して、著作権(ここでは著作者人格権は省略します。)侵害を理由に損害賠償請求をしたという事案です。
この事案では著作権侵害が認められ、法人は損害賠償をすることとなりました。
これだけみると賠償が認められたのは当然のように見えますが、注目すべきは、その法人の従業員が写真を、「使用料無料のコンテンツ」(フリー素材)を扱うウェブサイト(フリーサイト)から取得したものであり、有料画像等提供サービス上で提供されているものであるとは知らなかった、すなわち著作権侵害をする意図はなかった旨の主張がされていたということです。

裁判所の判断
この点につき、裁判所は以下のとおり判断しています。
『……Eがどのような手段により本件各写真にアクセスしたのかは明らかでないが、証拠(乙2、24)及び弁論の全趣旨によれば、Eは、ホームページを作成する会社に勤務してホームページ作成技術を学んだ後、平成20年に独立してホームページの作成を業務として行うようになり、 平成21年にコンピューターシステムの設計、開発及び販売のほか、イ ンターネットのホームページの作成、企画、立案及び運営などを目的とする株式会社オプティクリエイションを設立して、平成24年まで同社の事業としてホームページの作成業務を行っていたところ、同年10月 からは、弁護士法人である被告の従業員として被告ウェブサイトの作成業務を担当していたことが認められるから、このようなEの経歴及び立場に照らせば、Eは、本件掲載行為によって著作権等の侵害を惹起する可能性があることを十分認識しながら、あえて本件各写真を複製し、これを送信可能化し、その際、著作者の氏名を表示しなかったものと推認するのが相当であって、本件各写真の著作権等の侵害につき、単なる過失にとどまらず、少なくとも未必の故意があったと認めるのが相当というべきである。……』
そもそも損害賠償請求は、「故意」または「過失」のいずれかの要件が満たされない限り認められないところ、裁判所はこの部分でE(法人の従業員)に「過失」があるにとどまらず、未必の「故意」があると述べています。
ここにいう「過失」とは、誤解を恐れずに言えば「著作権侵害になるかもしれないと予想できたにも関わらず、著作権侵害になるかどうか調べることをしなかった」ことであり、「未必の故意」とは「著作権侵害になるかもしれないと思いつつ、著作権侵害をしても構わないと思っていた心理状態」のことを指します。
すなわち、この部分の判断は、
《仮に、本件の法人の従業員がフリー素材を扱うウェブサイトから写真を取得した場合であった場合であっても、この従業員が画像の著作権等についての十分な知識を有しているであろう経歴を持っている以上、著作権侵害になるかもしれないとの認識はあったはずであり、その上で著作権侵害をしてもかまわないと思っていたという心理状態であった。》
旨述べていることになります。
つまり、フリー素材を扱うウェブサイトから写真を取得した以上、著作権侵害をする意図はなかった、という主張は通らなかったのです。

裁判例を受けて
上記裁判例によれば、写真素材を取得した人の経歴にもよりますが、一部の「フリー」を掲げる悪質なウェブサイトから写真素材を取得した場合、当該写真素材によっては著作権侵害をしてしまう可能性があることになります。
もっとも、同じ「フリー」の語を掲げるサービスであっても、著作権者等が利用を許諾していることが明らかなサービス(当該サービス提供者側の者が著作権者等である場合等)では、このような問題は生じません(著作権法63条1項参照)。
写真素材を利用する際には、利用しようとするサービスの写真素材の著作権等の所在について意識することが必要であると考えます。
なお、本裁判例では法人の従業員が著作権を侵害したところ、法人が損害賠償請求をうけています。
これは使用者責任(民法715条1項)と呼ばれるもので、従業員等が第三者に故意過失により損害を与えた場合にこれを使用していた者が責任を負う規定によるものです。
本件では従業員という典型的な場合であったため、法人が責任を負うかは特段問題とはなりませんでした。
しかし、本件と異なりHP作成をまかされたのが、委託を受けた外部の業者であった場合であっても、法人の委託先に対する指示の強度によっては法人が責任を負うことも考えられます。
したがって、この点についても注意をしておくことが重要です。
弊所では著作権に関するご相談やご依頼をお受けしておりますので、ご気軽にお問合せください。
お問い合わせフォームはこちら

PAGE TOP