コラム

IT関連の裁判例

フリマサイトでの#〇〇(ブランド名)が商標権侵害にあたるとされた事例

裁判年月日など
大阪地判令和3年9月27日

事案の概要
本裁判例は、被告(個人)がフリマサイト(メルカリ)で商品を出品するにあたり、商品紹介ページに、#○○(〇〇は他社の商標。判決中では#○○を「被告標章1」とする。)と付けた行為について、商標権侵害の有無が問われた事件です。出品された商品は、〇〇(他社の商標=ブランド名)のものではありませんでした。
本コラムでは、争点のうち、商標的使用の有無について検討していきます。

本件の争点(商標的使用の有無)
原告の主張:
「#」部分は,ウェブサイト及びソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で,当該部分に続く文字列が示すテーマに関する情報の所在場所を表す機能を有するにとどまらず,商品自体の情報を示すものでもあり得る。被告標章1は,他のウェブサイトを閲覧している「〇〇」に関心を寄せる需要者が「〇〇」という文字列によって検索した際に被告サイトが検索結果として表示されるための仕組みのものであるから,「〇〇」という標章の顧客吸引力を利用して需要者を被告サイトに誘引するものといえる。
また,誘引されて被告サイトを閲覧している需要者が,被告標章1に接すると共に被告商品の画像に接することにより,被告商品を原告の商品であるかの如く受け止めるなどすることによって,原告の顧客が奪われる結果が招来されることとなる。
したがって,被告サイトにおいて,被告標章1の表示は,出所表示機能を果たす態様によるものであり,商標的使用といえる。

被告の主張:
ハッシュタグ「#」は,後に続く文字列が表す特定の商品又はテーマに関連する情報を結び付けるものであり,そのような情報のウェブサイト上又はSNS上の所在場所を表すものである。被告標章1の表示も,「〇〇」に関連する情報の所在場所を示すものに過ぎず,被告商品の商標として使用しているものではない。
すなわち,被告は,被告サイトにおいて,被告標章1の表示だけでなく,「#××」等のハッシュタグも使用し,その後(ハッシュタグの直下)に「好きの方にも…」という文字を記載するという態様でハッシュタグを使用している。このような使用態様は,ハッシュタグによりタグ付けした「××」,「〇〇」等を「好きな方」に向けて,ハッシュタグによりタグ付けされた事項に関連する情報が被告サイトに存在することを表示しているものといえる。このようなハッシュタグの使用により,被告は,上記情報の所在場所の1つが被告サイトの商品販売ページであることを示し,メルカリユーザーが検索する際の便宜を図っているのであり,被告標章1の表示を被告商品の出所を表示する態様により使用してはいない。

争点に対する裁判所の判断
被告は,被告標章1につき,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない,すなわち商標的使用がされていない旨を主張する。
しかし,前記のとおり,オンラインフリーマーケットサービスであるメルカリにおける具体的な取引状況をも考慮すると,記号部分「#」は,商品等に係る情報の検索の便に供する目的で,当該記号に引き続く文字列等に関する情報の所在場所であることを示す記号として理解される。このため,被告サイトにおける被告標章1の表示行為は,メルカリ利用者がメルカリに出品される商品等の中から「〇〇」なる商品名ないしブランド名の商品等に係る情報を検索する便に供することにより,被告サイトへ当該利用者を誘導し,当該サイトに掲載された商品等の販売を促進する目的で行われるものといえる。このことは,メルカリにおけるハッシュタグの利用につき,「より広範囲なメルカリユーザーへ検索ヒットさせることができる」,「ハッシュタグ機能をメルカリ上で使うと使わないでは,商品閲覧数や売り上げに大きく差が出ます」などとされていること(いずれも甲7)からもうかがわれる。
また,被告サイトにおける被告標章1の表示は,メルカリ利用者が検索等を通じて被告サイトの閲覧に至った段階で,当該利用者に認識されるものである。そうすると,当該利用者にとって,被告標章1の表示は,それが表示される被告サイト中に「〇〇」なる商品名ないしブランド名の商品等に関する情報が所在することを認識することとなる。これには,「被告サイトに掲載されている商品が「〇〇」なる商品名又はブランド名のものである」との認識も当然に含まれ得る。
他方,被告サイトにおいては,掲載商品がハンドメイド品であることが示されている。また,被告標章1が同じくハッシュタグによりタグ付けされた「××」等の文字列と並列的に上下に並べられ,かつ,一連のハッシュタグ付き表示の末尾に「好きの方にも…」などと付されて表示されている。これらの表示は,掲載商品が被告自ら製造するものであること,「〇〇」,「××」等のタグ付けされた文字列により示される商品そのものではなくとも,これに関心を持つ利用者に推奨される商品であることを示すものとも理解し得る。しかし,これらの表示は,それ自体として被告標章1の表示により生じ得る「被告サイトに掲載されている商品が「〇〇」なる商品名又はブランド名である」との認識を失わせるに足りるものではなく,これと両立し得る。
これらの事情を踏まえると,被告サイトにおける被告標章1の表示は,需要者にとって,出所識別標識及び自他商品識別標識としての機能を果たしているものと見られる。すなわち,被告標章1は,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様による使用すなわち商標的使用がされているものと認められる。これに反する被告の主張は採用できない。

コメント
フリマサイトでは、出品した商品とは異なるブランド名を紹介文などに入れてヒットを増やすことが非常に多く行われています。

出品する商品とは異なるブランド名(登録商標)を紹介文などで使用することは商標権侵害にあたりえますが、例えば、それが原材料や互換性を示すために用いられる場合(「〇〇入り」、「〇〇対応」など)には、出所を混同させるものではないため、商標権侵害を否定すべきと考えられています(このような態様は「商標的使用」ではないと考えられています)。

このため、#を付けて商品を出品することが商標的使用にあたるか(商標権侵害となるか)については議論がありました。

この点、本判決では、#〇〇は、「被告サイト中に「〇〇」なる商品名ないしブランド名の商品等に関する情報が所在する」ことを認識させるから、「被告サイトに掲載されている商品が「〇〇」なる商品名又はブランド名のものである」ことも認識させうる、と判断しています。

更に、#〇〇が他の記述との関係で「タグ付けされた文字列により示される商品そのものではなくとも,これに関心を持つ利用者に推奨される商品であることを示すものとも理解し得る。」としながらも、「「被告サイトに掲載されている商品が「〇〇」なる商品名又はブランド名である」との認識を失わせるに足りるものではなく,これと両立し得る。」と判断しています。

以上からすると、裁判所は、#〇〇と表示した以上掲載商品が〇〇のものであると認識させうるから、その認識を失わせる(打ち消す)表示がなければ商標的使用にあたる、と判断したと考えることができます。

実際上、#はかなり自由が使われ方がされており、「#〇〇と表示した以上掲載商品が〇〇のものであると認識させうる」とまで認定できるかは判断が分かれると思います。もっとも、本件のようなケースは、ブランドのもつグッドウィルへのフリーライドであることは否めません。

本判決は、下級審判例ではありますが、上記の点について判断した珍しい判決ですので、実務上参考になります。

なお、類似のケースについて「メタタグと商標権侵害」のコラムでも紹介していますので、併せてご覧ください。
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