コラム

ウェブサービスと法律

ネット上におけるチケットの転売と古物営業法

ネット上におけるチケットの転売
フリマアプリやネットオークション等のサービス上では、レジャー施設やコンサート等のイベントのチケットが頻繁に取引されています。このような場は、急遽行けなくなってしまったイベントのチケットを売ったり、欲しいチケットを安く買ったりするときには非常に重宝するものです。しかし、ときどき、このようなサービスを用いてチケットを転売した者が逮捕されたというニュースを耳にすることがあります。このような逮捕されうる転売行為と、日常的に行われているチケットのやり取りとは何が違うのでしょうか。今回は、ネット上における転売行為について、古物営業法との関係でみていきます。

古物営業法と「古物」
そもそも古物営業法とは、その言葉のとおり、古物の取引について定める法律です。古物というとなんとなく骨董品のようなイメージがありますが、この法律が定める古物とは、以下のものをいいます(古物営業法、以下、「法」という。2条1項)。
①一度使用された「物品」(*1)
②使用されない「物品」で使用のために取引されたもの
③これらの「物品」に幾分の手入れをしたもの
つまり、骨董品のようなものに限らず(*2)、一度使用されたもの、すなわち中古品などは広く①として古物に含まれることになります。そして、今回問題となるチケット等は中古品ではありませんが、まだ使用されていないものであり、使用のために正規の販売主等やそこから購入した者から購入されたものであるので、②として古物にあたることになります。

*1 古物とされるものには一応限定があり、法上の「物品」にあたる必要があります。そして「物品」とは、法2条1項によれば「鑑賞的美術品及び商品券、乗車券、郵便切手その他政令で定めるこれらに類する証票その他の物」を含み、「大型機械類(船舶、航空機、工作機械その他これらに類する物をいう。)で政令で定めるもの」でないものを指します。
そして、「政令で定めるこれらに類する証票その他の物」については古物営業法施行令1条(以下、「令」という。)に定めがあり、以下のものが挙げられています。
(ⅰ)航空券(令1条1号)
(ⅱ)興行場又は美術館、遊園地、動物園、博覧会の会場その他不特定かつ多数の者が入場する施設若しくは場所でこれらに類するものの入場券(令1条2号)
(ⅲ)収入印紙(令1条3号)
(ⅳ)金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。)が記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により記録されている証票その他の物であって、次に掲げるもの(令1条4号本文)
a. 乗車券の交付を受けることができるもの(令1条4号イ)
→オレンジカード等
b. 電話の料金の支払のために使用することができるもの(令1条4号ロ)
→テレホンカード等
c. タクシーの運賃又は料金の支払のために使用することができるもの(令1条4号ハ)
→タクシーチケット等
d. 有料の道路の料金の支払のために使用することができるもの(令1条4号二)
→有料道路回数券、ハイウェイカード等
今回問題となるチケット等は「興行場又は美術館、遊園地、動物園、博覧会の会場その他不特定かつ多数の者が入場する施設若しくは場所でこれらに類するものの入場券」として令1条2号にあたるため、「政令で定めるこれらに類する証票その他の物」として「物品」に含まれることとなります。
ただ、法令上特に掲げられていない、衣類、時計、家具または自動車等の通常中古品として販売され得るものについては当然に「物品」となるため、かなり多くのものが「物品」の範囲に含まれているものといえます。

*2 通常は①に入ると思われますが、最低限の修理・修復等がされていれば③に入るものと思われます。

古物営業法上の違反行為
法は、前記にいう古物について、許可なしに売買・交換する営業を営むこと及び委託を受けてこれらの営業を営むことを禁じており(法31条1号、2条2項1号、*3)、これに反すると3年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられることになります。ときどき報道される逮捕者の多くは、この無許可での販売をしたとされたものと思われます。
では、許され得るチケットの取引と違法な無許可での転売とは何が違うのでしょうか。

違法なチケットの転売
まず注意すべきは、仕入れ先がどこかという点です。
例えば正規の販売元からチケットを購入する場合であれば、このチケットは古物にはあたらないため、古物の売買をしたことにはなりません。反対に、一度誰かの手に渡ったものを買い取り、これを転売する場合には、古物の売買にあたります。
次に、古物の売買が、「営業」にあたるかに注意する必要があります。営利目的で反復継続して古物の取引を行っている場合には、「古物営業」にあたります。営利目的や反復継続しているかは、商品の価格や取引の頻度から総合的に判断されます。
このように「古物の売買」を「営業」として行う場合には、許可を受けなければならず、許可を受けずに行うと処罰される可能性があります。

*3 古物の販売・交換等の営業を営むものであっても、古物の買い取りを行わず売却することのみを行うもの、又は自己が売却した物品をこの売却の相手方から買い受けることのみを行うものであれば、許可を受ける必要はありません(法2条2項1号)。古物営業法の目的は古物に混入した盗品を速やかに発見することにあるのですが、このような態様においては盗品が混入するおそれが低いためです。

おわりに
ネット上のチケット販売については、前記の通り、古物営業法上一部の行為が違法なものとされています。しかし、仮に古物営業法上違法に入手されたものでなくとも、何ら問題がないわけではありません。例えば、レジャー施設やイベント等の運営者側が転売されたチケットの番号等を差し控えており、該当するチケットが提示された場合に入場を断るなどの対応がなされることもありますし、チケット提示の際に本人確認ができない場合にも同様に入場を断るなどの対応がなされることがあります。このような場合には、購入者はせっかく買ったチケットが使えないということになりますから、販売者との間でトラブルが生じることになりかねません。
ネット上でチケットのやり取りをしようとする者としても、これらチケット等を扱うネット上のサービスの事業者としても、チケットの取扱いについては注意しておくべきといえます。

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