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タイムセールと景品表示法〜二重価格表示の注意〜

はじめに

オンラインストアでの出品・購入が広く行われている中で、オンラインストアを運営する事業者が気をつけなければならないことに「タイムセール」があります。

タイムセールは消費者にとって魅力的な割引イベントですが、消費者に十分な情報を提供せずにタイムセールを行うと、景品表示法(以下「景表法」といいます。)の観点から見逃せない問題が存在する可能性があります。

本コラムでは、「タイムセール」で注意したい景表法の二重価格表示について見ていきたいと思います。

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景品表示法の不当表示

景表法では、事業者の販売価格について一般消費者(以下単に「消費者」といいます。)に実際のもの又は他の事業者(競争事業者)が販売するものよりも著しく有利であると誤認するような表示を不当表示(景表法第5条第2号に規定する有利誤認表示)として規制しています。

二重価格表示とは

不当表示に該当する二重価格表示とは、事業者が自己の販売価格に当該販売価格よりも高い他の価格(以下「比較対照価格」といいます。)を併記して表示することをいいます。

例えば、同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いて表示を行う場合や比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合が例として挙げられています。

二重価格表示を行う際に、比較対照価格の内容について適正な表示を行なっていない場合には、消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、混乱を招くため、不当表示に該当するおそれがあるとされています。

タイムセールにおける二重価格表示

事業者が自己の販売価格に比較対照価格を併記して期間限定セールを行った場合、消費者が期間限定でお得だと思ったものが期間を過ぎても同じ価格のままだったり、お得だと思って購入したのにもかかわらず、実際にはお得に購入したわけではなかったりした場合、消費者に誤解を与える表示をして購入させたことになってしまいます。

そのため、価格や条件の混乱によって消費者が意思決定の誤りを引き起こさないため、タイムセールを行う際には適切な二重価格表示を行うことが大切です。

将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示

将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う際には、表示された将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないときにこのようなおそれがあるとされており、例えば、

・実際には将来その値段で販売することがない価格の表示をすること
・ごく短期間のみ当該価格で販売するにすぎないとき

などが例として挙げられています。

将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示をする場合には、販売計画の内容等に基づいて判断されるところ、「確実な予定」を有していると認められる必要があるとされています。事業者が、セール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で販売するための合理的かつ確実に実施される販売計画について、セール期間を通じて有している必要があるとされています。

合理的かつ確実に実施される販売計画とは、特段の事情を除いて、一般的には、事業者がセール期間後すぐに比較対照価格としていた将来の販売価格で販売を開始し、その販売価格での販売を2週間以上継続した場合には、ごく短期間であったとは考えられないと考えられています。

過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示

次に、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示については、

・以前販売していた価格を具体的に表示すること
・過去の販売価格が最近相当期間にわたって販売されていたこと

が必要とされています。

「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とは、一般的には、二重価格表示を行う最近時(セール開始時点からさかのぼる8週間)において当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とみてよいものと考えられています。

ただし、その要件を満たす場合であっても、以下のいずれかの場合においては、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえないと考えられています。

・当該価格で販売されていた期間が通算して2週間未満の場合
・当該価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合

例えば、セーターを「当店通常価格12,000円を期間限定9,500円」と表示しているのにもかかわらず、

・実際には通常価格が10,000円である
・当店通常価格と表示しているのにも関わらず、まだ販売をしたことがない
・「通常価格」で販売されていた期間が過去の販売期間(8週間)のうち、最初の2週間だけで、その後の6週間は「通常価格」よりも安く売っていた

などの場合に不当表示になると考えられます。

希望小売価格を比較対照価格とする二重価格表示

製造業者等(以下、「メーカー」といいます。)によって設定されあらかじめ公表されている価格とはいえない価格を希望小売価格と称して比較対照価格に用いる場合には、不当表示に該当するおそれがあるとされています。

通常、希望小売価格についてはメーカーによって小売業者の価格設定の参考となるものと設定され、あらかじめ、新聞広告やカタログ、商品本体への印字等により公表されているものであり、これらから消費者は、小売業者の販売価格が安いかどうかを判断する際の参考情報の一つとなり得ると認識していると考えられています。

そのため、メーカーによって設定され、あらかじめ公表されているとはいえない価格を希望小売価格と称して比較対照価格に用いることは、消費者に販売価格が安いとの誤認を与えるため、不当表示に該当するおそれがあるとされています。

例えば、

・A電器店が、「全自動洗濯機 メーカー希望小売価格75,000円の品 58,000 円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、メーカーであるB電機が設定した希望小売価格は 67,000 円であるとき。
・ A衣料品店が、「ビジネス・スーツ メーカー希望小売価格29,000円の品 割引価格 23,800 円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、メーカーは希望小売価格を設定していないとき。

などが不当表示に該当する事例として挙げられています(消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」、11頁)。

競争事業者の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示

同一の商品について販売している他の事業者(消費者が同一の商品について代替的に購入することがあり得る)の最近時の販売価格とはいえない価格を比較対照価格に用いる場合には、不当表示に該当するおそれがあるとされています。

また、市価を比較対照価格とする二重価格表示について、競争関係にある相当数の事業者の実際の販売価格を正確に調査せずに表示する場合についても、不当表示に該当するおそれがあるとされています。

自己の店での販売価格の方が他の店と比べて安いということを強調するために、競争事業者の販売価格を比較対照価格に用いた二重価格表示を行う場合には、競争事業者の最近時の販売価格を正確に調査するとともに、特定の競争事業者の販売価格と比較する場合には、その競争事業者の名称を明示する必要があるとされています。

不当表示に該当する恐れのある表示の例としては、

・A人形店が、「陶製人形 市価9,000円のものを3,500円」と表示しているが、 実際には、当該商品と同一の商品について、A人形店が販売している地域内における他の人形店では、最近時において 3,000 円から4,000 円で販売されているとき。
・A時計店が、「○○製時計 B時計店横浜店108,000円の品 80,000円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、B時計店横浜店では最近時において 70,000 円で販売されているとき。

などが事例として挙げられています(消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」、13頁)。

おわりに

事業者としては、タイムセールが消費者にとって魅力的な割引イベントとなるために、様々な表現を用いて商品の販売価格の安さを強調することが考えられます。販売価格が安いという印象を与える全ての表示が景表法上問題となるものではありませんが、上記に取り上げたように、表示された商品について実際と異なって強調し、消費者に対して誤認させてしまうと不当表示に該当するおそれがあります。

タイムセールを行う場合には、適用対象について商品の範囲と条件の明示をすることや、安さの理由や安さの程度について具体的に明示するなどして、消費者が誤認しないようにする必要があります。

弊所では、スポットでのご相談やご依頼もお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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参考

消費者庁「二重価格表示」

消費者庁「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」

消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」

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