キャラクター生地を使用したハンドメイド品
手芸店等に行くと、人気のキャラクターをプリントした生地が多く販売されています。これらの生地はもともと、バッグや小物等が作れるように売られているものです。
では、この小物等の完成品を売る行為は、著作権侵害にあたるでしょうか。
キャラクター生地と著作権
まず著作権の対象となる著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいいます(著作権法2条1項1号)。そして判例に従えば、キャラクターが絵として表現されている場合、このキャラクターの絵は著作物にあたることになります(ポパイネクタイ事件、最判平成9年7月17日判決、*1)。
したがって、キャラクター生地にプリントされているキャラクターの図柄には、著作権があることになります。
*1 この事件は一話完結型の連載漫画「Popeye the Sailor」のポパイの図柄をネクタイにプリントし、販売したというものです。裁判所は、ネクタイにポパイの図柄をプリントした行為が「複製」行為に該当するかの判断にあたり、「第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りるというべき」との基準を示しました。その上で、ネクタイに描かれた人物が水平帽をかぶり、水兵服を着、口にパイプをくわえている点などを挙げ、ネクタイへのプリントが複製にあたるものと判断しています。もっとも、ポパイの表現については、「Popeye the Sailor」が一話完結型の連載漫画であったことから、著作権の保護期間が第一回作品を基準として計算されるとされ、結局著作権の保護期間は終了しているとして、著作権侵害を認めませんでした。
キャラクター生地の著作権と譲渡権の消尽
著作権の譲渡については、消尽という考えがあります。この考えによれば、適法に生産・作製または複製され、流通に置かれた著作物については、その後さらに譲渡をしても著作権侵害(譲渡権侵害(*2))にはならないことになります(著作権法26条の2第2項)。著作物が適法に流通したことで譲渡権が使い尽くされたといえるからです。中古の本や音楽CDを売ることが著作権の侵害にならないことがこの考え方の表れといえます。
キャラクター生地についてはどうでしょうか。上記によれば、キャラクター生地が適法に流通して手元に来たものである限り、譲渡権は消尽したものとして、侵害はおこらないようにも思えます。
*2 著作権は複数の権利の束からなり、ひとつひとつの権利を支分権といいます。譲渡権も支分権のうちのひとつです。
消尽の限界
もっとも、譲渡権の消尽は前記のように、権利が使い尽くされたといえるためにとられるものです。したがって、いまだ権利が使い尽くされたといえない場合、例えば、物がもとの形とは違う形で流通に置かれることになる場合には、権利がいまだ消尽していないと考える余地があります。
この著作権(譲渡権)の消尽の限界といえる問題については、現時点(平成29年8月28日現在)で直接の判断をした判例はありません。しかし、著作権と同じ知的財産権である特許権については、この消尽の限界について判断した判例があります(*3)。裁判所はこの判決の中で、以下のような基準を示しました。
「特許権の消尽により特許権の行使が制限される対象となるのは,飽くまで特許権者等が我が国において譲渡した特許製品そのものに限られるものであるから,特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使することが許されるというべきである。そして,上記にいう特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判断するのが相当であり,当該特許製品の属性としては,製品の機能,構造及び材質,用途,耐用期間,使用態様が,加工及び部材の交換の態様としては,加工等がされた際の当該特許製品の状態,加工の内容及び程度,交換された部材の耐用期間,当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となるというべきである。」
この基準によれば、同一性を欠くものが新たに製造されたといえるときには消尽はおこらないということになります。
この判例の考え方は著作権(譲渡権)の消尽の限界についても参考になりえるものと思います。この基準によると、キャラクター生地を使用したハンドメイド品の作成・販売についても、その使用の方法等によっては消尽が認められず著作権侵害を構成する可能性があるものといえるでしょう。
*3 最判平成19年11月8日判決。インクジェットプリンタ用のインクタンクについての特許権者が使用済みのインクタンクにインクを再注入したインクタンクを輸入・販売していたものに対し輸入・販売等の差し止め等を求めた事件です。裁判所は、上記引用の基準に従い、特許権は消尽しないとして特許権者の権利行使を認めました。
おわりに
キャラクター生地を使用したハンドメイド品の作成・販売に関しては、前記の通りこれを直接に判断した判例等はありません。しかし、譲渡権の消尽にも限界があると考えられますから、ハンドメイド品の作成・販売には著作権を侵害するリスクがあるといえます。また、仮に消尽の点をクリアしたとしても、生地の使い方によっては著作権のうち著作者人格権である同一性保持権を侵害する可能性もあります。加えて、同行為は商標法ないし不正競争防止法等との関係でも問題となり得ます。このような問題を取り扱うEC型サービス事業者としては、法的リスクについて検討したうえで適切なサービスを提供するよう努めることが重要です。
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