はじめに
本コラムでは、AI生成物の著作物性について、文化審議会著作権分科会法制度小委員会の「AIと著作権に関する考え方について」を元に詳しく見ていきます。
著作権法(以下、「法」といいます。)上、著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(法2条第1項第1号)と定義されており、AI生成物が著作物に該当するかは、この著作物の定義に当てはまるか否かで判断されるとされています。
また、著作者は、「著作物を創作する者」(同条同項第2号)と定義されているところ、生成AIは法的な人格を有さないため、この「創作する者」には該当しません。そのため、AI生成物が著作物に該当すると判断された場合も、生成AIが著作者になることはなく、生成AIを利用して「著作物を創作した」人が著作者となるとされています。
生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係
生成AIに対する指示の具体性とAI生成物の著作物性との関係については、著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられており、生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられています。
法2条第1項第1号における「創作的」の要件については、裁判例で次のように表されています。
創作的に表現したものというためには、当該作品が、厳密な意味で、独創性の発揮されたものであることは必要でないが、作成者の何らかの個性の表現されたものであることが必要である。文章表現に係る作品において、ごく短いものや表現形式に制約があり、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡、かつありふれたものである場合には、筆者の個性が現れていないものとして、創作的な表現であると解することはできない。
(東京地方裁判所平成11年1月29日判決)
AI生成物の著作物性は、個別具体的な事例に応じて、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられています。
著作物性を判断するに当たり、例として以下に示すような3つの要素があると考えられています。
① 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
創作的表現と言えるものを具体的に示す詳細な指示は創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられています。他方で、長大な指示であっても創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられています。
② 生成の試行回数
試行回数が多いこと自体は創作的寄与の判断に影響しませんが、①と組み合わせ、生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すような場合には、著作物性が認められることも考えられています。
③ 複数の生成物からの選択
単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しませんが、通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものがあれば、そうした行為との関係についても考慮する必要があると考えられています。
なお、人がAI生成物に、創作的表現といえる加筆修正を加えた部分については、通常著作物性が認められると考えられています(それ以外の部分については影響しない。)
おわりに
AI生成物が著作物にあたるには、「創作的」な表現であることが認められる必要があります。
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参考
文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」令和6年3月15日
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