コラム

ITと知的財産権

【AIと著作権各論3】生成・利用段階について

はじめに~開発・学習段階とは~

生成AIと著作権の関係には、主に「開発・学習段階」、「生成・利用段階」の2つの段階があり、その段階ごとに検討することが必要とされています。本コラムでは、「生成・利用段階」について、文化審議会著作権分科会法制度小委員会の「AIと著作権に関する考え方について」を元に詳しく見ていきます。

開発・学習段階についてはこちらのコラムをご参照ください。

生成・利用段階とは、生成AIにより生成物を出力し、その生成物を利用する段階をいい、AIを利用して生成物の生成をする生成行為と、生成物のインターネットを介した送信(生成した画像等をアップロードして公表したり複製物を販売したりする)などの利用行為について、既存の著作物の著作権侵害となる可能性があるため、他の創作活動の著作権侵害の要件と同様に考えていく必要があるものとされています。

AIを利用して画像等を生成した場合でも、著作権侵害となるか否かは、人がAIを利用せずに絵を描いた場合などの場合と同様に、「類似性」及び「依拠性」によって判断されることになるとされています。

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類似性の考え方について

類似性の有無については、これまでの判例により、他人の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得できること」について認められてきています。

「創作的表現」が共通していることが必要なため、アイディアや創作性がない部分が共通するにとどまるような場合は、類似性は否定されます。

これまでの裁判例では、以下の点を考慮している例が多く見られます。

・既存著作物との共通部分が「表現」か、あるいは「アイディア」や「単なる事実」か
・既存著作物との共通部分が「創作性」のある表現か、ありふれた表現か

AI生成物と既存の著作物との類似性の判断においても、既存の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得できること」等により判断されるものと考えられます。

依拠性の考え方について

「依拠」とは、「既存の著作物に接して、それを自己の作品の中に用いること」をいうとされています。例えば、過去に目にした既存のイラストを参考に、これと類似するイラストを制作した場合には依拠性があると考えられます。

これに対し、既存の著作物を知らず、偶然に一致したに過ぎない、「独自創作」などの場合は、依拠性はないと考えられます。

これまでの裁判例では、以下の点を総合的に考慮して依拠性を判断している例が多く見られます。

・後発の作品の制作者が、制作時に既存の著作物(の表現内容)を知っていたか
・後発の作品と、既存の著作物との同一性の程度
・後発の作品の制作経緯

生成AIの場合、その開発のために利用された著作物について、生成AIを利用した本人は認識していなくても、当該著作物に類似したものが生成される場合も想定されます。

そこで、生成AIによる生成行為における依拠性について以下のように整理されています。

① AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合

AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用して当該著作物の創作的表現を有するものを生成させた場合は、依拠性が認められる

② AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合

AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められ、当該AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと推認される

③ AI利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつ、AI学習用データに当該著作物が含まれない場合

AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められない

おわりに

AI生成物についても既存の著作物との「類似性」又は「依拠性」が認められない場合は、既存の著作物の著作権侵害とはならず、著作権法上は著作権者の許諾なく利用することが可能です。

これに対し、既存の著作物との「類似性」及び「依拠性」が認められる場合には、そのような生成物を利用する行為は、権利者からの利用許諾を得ているか、許諾が不要な権利制限規定が適用される場合のいずれかに該当しない限り、著作権侵害となることが考えられます。

 

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参考

文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」令和6年3月15日

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