はじめに
資金移動業者には、犯罪収益移転防止法により「取引時確認」の義務があり、取引時確認には、本人特定事項の確認が含まれます。
本コラムでは、本人特定事項の確認のうち、資金移動業やフィンテック関連で最も対応場面が多いと想定される、自然人に対する非対面の確認について、2018年11月30日施行の改正犯罪収益移転防止法施行規則を踏まえて説明していきます。
本人特定事項の確認
本人特定事項の確認は、ⅰ)取引をする「本人」が実在する人物であること、ⅱ)取引をする人物が名義人「本人」であること(なりすましの排除)の2つを目的として行います。
本人特定事項は、自然人の場合、氏名、住所及び生年月日の3点です(法4条1項1号)。
事業者は、この3点を非対面で確認する場合、本人から本人確認書類(運転免許証等)の写しの提供を受ける必要があります。
オンラインによる「写しの提供」
本人確認書類の「写しの提供」には、ⅰ)アプリを通じた画像提供、ⅱ)Eメールによる画像の送信、ⅲ)ウェブサイトへの画像のアップロード等のオンラインによる方法も含まれます。
もっとも、従来は、本人確認を完結させるには、原則として、「写しの提供」をオンラインで受けたあと、更に本人確認書類に記載された住居等に対して関係書類を転送不要郵便物等として発送する必要がありました。
オンラインによる完結
上記のような取扱いは非常に不便であったため、施行規則の2018年改正により、郵便物等の発送を要せず、オンラインのみで本人確認を完結することができるようになりました。
最も使用頻度が高いと思われるのは、オンラインで「本人」の画像と写真付きの運転免許証等の画像の提供を受ける以下の方法です。
当該顧客等又はその代表者等から、特定事業者が提供するソフトウェアを使用して、本人確認用画像情報(当該顧客等又はその代表者等に当該ソフトウェアを使用して撮影をさせた当該顧客等の容貌及び写真付き本人確認書類の画像情報であって、当該写真付き本人確認書類に係る画像情報が、当該写真付き本人確認書類に記載されている氏名、住居及び生年月日、当該写真付き本人確認書類に貼り付けられた写真並びに当該写真付き本人確認書類の厚みその他の特徴を確認することができるものをいう。)の送信を受ける方法(施行規則6条1項1号ホ)
なお、画像の撮影は、当該事業者が提供するソフトウェア(アプリ)でなければなりません。
このソフトウェア(アプリ)は、なりすまし等防止のため、画像の加工機能がないものである必要があります。
この他にも、「厚みその他の特徴」(施行規則6条1項1号ホ)が確認することができるなど、ソフトウェア(アプリ)の仕様には一定の制限がありますので、同施行規則に関する「意見公募手続の実施結果」(パブリックコメント)等を参考にしてください。
他方で、郵便による方法については規制強化がされ、本人確認書類等が追加されていますのでご注意ください(施行規則6条1項1号チ、リ)。なお、被用者との間で行う取引(給与振込)等については、従前どおり、本人確認書類は1点で足ります(同号ヌ)。
おわりに
以上のとおり、施行規則の改正により、本人確認手続のボトルネックとなっていた郵便発送の手続きを回避し、オンラインで手続きを完結できるようになりましたので、広く活用されることが望まれます。