はじめに
ウェブサービスでは、サービスレベルアグリーメント(SLA)を定めることがあります。SLA(Service Level Agreement)は、提供されるサービスの範囲・内容・前提事項を踏まえた上で「サービス品質に対する利用者側の要求水準と提供者側の運営ルールについて明文化したもの」であり、「サービス利用契約を締結する際に、SaaS 提供者とサービスの利用者(以下、利用者)双方による合意の結果として、契約文書の一部もしくは独立した文書として締結されるケースが多い」とされています(経済産業省「SaaS向けSLAガイドライン」)。もっとも、SLAの定義は、これに留まるものではありません。
それでは、SLAの未達は、必ず契約違反となってしまうのでしょうか?
SLAの内容
SLAの項目は、以下の4分類に分けて考えることができます(上記ガイドライン)。
アプリケーション運用:システムの使い勝手に関わる項目(可用性/信頼性/性能/拡張
性)
サポート:障害対応や一般的問合せ対応に関わる項目
データ管理:データバックアップを含む利用者データの保証に関わる項目
セキュリティ:公的認証や第三者評価(監査)を含むセキュリティに関わる項目
典型的なSLAとしては、uptime(システム稼動時間)の保証(99%以上など)があります。
SLAの考え方
SLAを契約内容の一部とすると、その未達は契約違反ということになるのが一般的です。これを前提に、SLA未達の場合に、利用料の一部を減額したり、返金したりすることを約束するサービスも少なくありません。
もっとも、SLA未達の場合に、必ず減額・返金対応しなければならないとすると、特に事業者が中・小規模の場合には、負担が重過ぎる場合がありえます。また、利用規約で一切免責としている場合、これとの整合性が問題となりえます。
努力目標としてのSLA
このような趣旨から、SLAについては、「努力目標」ないし「商業的に合理的な範囲で達成すべき目標」として定義しておくことが考えられます。
例えば、SLAについて「当社の定めるSLAは、当社の努力目標を定めているものであって、当社はユーザーに対してこれらを保証するものではありません。」と定めることが考えられます。
この場合、SLA未達は、契約違反ではありません。
SLAに、一層の重みを持たせるのであれば、「当社は、SLAを、商業的に合理的な範囲で達成します。」と定めることも考えられます。
この場合、SLAが未達であっても、それを達成することが商業的に合理的な努力では不可能であれば(ビジネスとして成立しない程度の費用がかかるなど)契約違反とはなりません。
おわりに
このように、SLAについては、その定義(位置づけ)により、未達となった場合の取扱いについて差が生じてきます。自社にとってSLAをどのような位置づけとするのが適切かを検討のうえ、SLA内又は利用規約において、それに沿った記載をしておくことが必要です。