コラム

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免責条項の有効・無効ラインを整理する:消費者契約法の視点から

はじめに
契約書や利用規約において頻繁に目にするものに「免責条項」や「賠償額の制限条項」があります。
これらは、事業者が事業活動に伴う潜在的なリスクを管理し、予測不能な多額の損害賠償責任から事業を守るために不可欠なものです。
しかし、これらの条項は、顧客にとっては不利益となる場合が多く、特に情報の非対称性や交渉力の格差が大きい消費者取引においては、その有効性が厳しく制限されています。
このコラムでは、消費者取引を前提に、これらの免責・責任制限条項がどのように扱われるのかを解説します。

消費者との取引:消費者契約法による厳格な制限
事業者と消費者との間の契約(消費者契約)においては、消費者を保護するため、消費者契約法によって免責条項等に厳格な規制が設けられています。この法律は強行法規であり、これに反する契約条項は無効となります。

1)全部免責条項の無効
消費者契約法は、事業者の債務不履行や不法行為によって消費者に生じた損害を賠償する責任の「全部」を免除する条項(全部免責条項)を、事業者の過失の有無や程度にかかわらず一律に無効としています(消費者契約法第8条第1項第1号、第3号)。
このため「いかなる場合でも一切責任を負わない」といった条項はもちろんのこと、「当社の軽過失による損害については責任を負わない」のように、軽過失の場合の責任を完全に免除する条項も無効となります。
過去の裁判例では、「当社は、会員に生じた損害は、当該会員自身が負担するものとし、当社に責に帰すべき事由があっても、当社は一切損害賠償責任を負いません。」といった条項や、「ただし、当社の故意又は重過失による場合に限り、当社は会員に生じた損害を賠償するものとします。」といった条項も、事業者の軽過失による責任を全部免除するものとして、消費者契約法第8条第1項に違反し無効と判断されています。

2)一部免責条項の無効(故意・重過失の場合)
次に、賠償額に上限を設けたり、賠償の範囲を通常損害に限定したりする「一部免責条項」については、その扱いが異なります。消費者契約法は、事業者に「故意または重大な過失(重過失)」がある場合にまで、その損害賠償責任の一部を免除する条項を無効と定めています(同法第8条第1項第2号、第4号)。 これは、事業者の帰責性の程度が著しく高い故意・重過失の場合にまで、責任を軽減することを認めるのは消費者保護に欠けるという考え方に基づくものです。したがって、以下のような条項は無効となります。
「当社が損害賠償責任を負う場合、その原因の如何を問わず、上限額は金5万円とします。」
「当社に故意又は重過失があると当社が認めたときは、全額を賠償します。」(事業者に責任の限度を決定する権限を与えているため無効)
逆に言えば、事業者の過失が「軽過失」である場合には、損害賠償の範囲や金額を限定する一部免責条項は、原則として有効となります。ただし、その場合でも、賠償額の上限が「10円」のように極端に低額であるなど、信義則に反し消費者の利益を一方的に害する条項は、消費者契約法第10条によって無効となる可能性があります。

3)まとめ
以上のことから、消費者契約においては、
全部免責:事業者の過失の程度を問わず、常に無効。
一部免責:事業者に故意・重過失がある場合は無効。事業者の軽過失による場合にのみ有効となり得る。
と整理できます。結局、消費者契約において法的に有効性が認められる免責条項は、「事業者に軽過失がある場合の一部免責」に限定されることになります。

実務上の対応
以上を前提に、実務上、以下のような対応が求められます。
・消費者契約法が適用される場合には、全部免責条項は適用されない旨を明記する。
・消費者契約法が適用される場合には、「故意・重過失の場合を除き、賠償額の上限を〇〇円とする」など、軽過失を対象とした一部免責条項を別途設ける。

おわりに
免責条項や賠償上限を定める条項は、アプリ・ウェブサービスをはじめとするtoCのサービスの利用規約に必須であり、慎重に対応する必要があります。判断に迷われる場合には、専門家へ相談することをお勧めします。
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