はじめに
取締役会は会社の重要な意思決定機関であり、原則として取締役が一堂に会して慎重な審議を経て決議を行うことが期待されています。しかし、会社法は一定の要件を満たす場合に限り、取締役会の開催を省略し、書面や電磁的記録による決議(いわゆる「書面決議」)を認めています。これは、迅速かつ機動的な意思決定を可能にし、現代の企業活動に柔軟性をもたらす制度です。
このテーマについて相談する
書面決議の法的枠組みと要件
書面決議は、会社法370条に基づき、定款にその旨の定めがある場合に限り認められます。
具体的には、
①取締役が取締役会決議の目的事項について提案し、
②議決に加わることができる取締役全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をし、
③監査役設置会社では監査役が異議を述べない場合
に、当該提案を可決する旨の取締役会決議があったものとみなされます。
提案方法については特段の定めはありませんが、同意の意思表示が書面または電磁的記録であることから、提案も同様の方法で行うのが実務的です。
書面決議が成立した場合、取締役会決議があったものとみなされ、議事録の作成等も通常の取締役会決議と同様に取り扱われます。
書面決議の利用場面と留意点
書面決議は、緊急の経営判断が求められる場合や、取締役会の開催が物理的に困難な場合に活用されることが多いですが、法律上はそのような事情がなくとも、要件を満たせば利用可能です。
近年、上場企業でも約4割が書面決議を利用しているとの調査結果もあり、実務での普及が進んでいます。
ただし、取締役会決議事項は本来、十分な審議を経て決定すべき重要事項であるため、安易な書面決議の多用は取締役会の形骸化を招く恐れがあります。決議事項の内容や会社の状況に応じて、実際に会議を開催すべきか、書面決議で足りるかを善管注意義務の観点から慎重に判断する必要があります。
開催省略の限界と例外
書面決議や報告の省略が認められる場合でも、会社法は最低3か月に1回以上、代表取締役や業務執行取締役が業務執行状況を報告する取締役会の開催を義務付けています(会社法363条2項、372条2項)。この定例取締役会については、書面決議や開催省略は認められません。
書面決議が行われた場合や報告の省略があった場合でも、その内容や決議日等を取締役会議事録に記載・記録する義務があります。
実務運用のポイント
書面決議を行う場合は、定款に明示的な規定が必要であり、株主総会の特別決議による定款変更が求められることが一般的です。
書面決議の成立には、議決権を有する取締役全員の同意が不可欠であり、1人でも同意しない取締役がいれば成立しません。
監査役設置会社では、監査役が異議を述べた場合も決議は成立しません。
書面決議の内容は、議事録に記載し、会社の意思決定の透明性と証拠性を確保することが重要です。
まとめ
取締役会の書面決議・開催省略は、企業の迅速な意思決定を支える有用な制度ですが、取締役会の本来の機能やガバナンスを損なわないよう、慎重な運用が求められます。定款の整備、意思決定過程の合理性の確保、議事録の適切な作成など、法令と実務の両面からバランスの取れた対応が重要です。
渋谷ライツ法律事務所では、企業での勤務経験のある弁護士が全件窓口として担当する「顔の見える」アウトソーシングを提供していますので、ぜひご検討ください。
詳細はこちら:法務のアウトソーシング