はじめに
「数量限定」「期間限定」といった言葉は、消費者の購買意欲を強く刺激します。希少性が高いと感じることで、「今買わなければ損をする」という心理が働き、購入へとつながりやすくなるからです。しかし、もし「数量限定」で完売したはずの商品が、後日、販売数量を増やして再販売されたとしたら、どうでしょうか。最初に購入した消費者の中には、騙されたと感じる人もいるかもしれません。このような販売方法は、法的にどのような問題点をはらんでいるのでしょうか。本稿では、特に特定商取引法の観点からこの問題を解説します。
「人を誤認させるような表示」の問題
通信販売などにおいて、事業者が消費者の判断に影響を与えるような重要な事項について、事実と異なる表示や、消費者を誤解させるような表示をすることは、法律で規制されています。特に特定商取引法では、通信販売における広告で、契約の申込みに係る事項について「人を誤認させるような表示」をすることを禁止しています。
「数量限定」と表示しながら、実際には完売後に追加販売することが当初から予定されていたり、容易に追加生産が可能であったりする場合、消費者は「この機会を逃すと二度と手に入らない」と誤認して購入の意思決定をしている可能性があります。このような表示は、消費者の合理的な判断を妨げるものとして、特定商取引法が禁止する「人を誤認させるような表示」に該当するおそれがあります。
誤認による契約の取消し
もし、事業者が行った「人を誤認させるような表示」によって、消費者が内容を誤認して契約の申込みをした場合、消費者はその申込みの意思表示を取り消すことができます。契約が取り消された場合、その契約は法律上、初めから存在しなかったこと(無効)になります。
契約が無効になると、民法の一般原則に従い、当事者はそれぞれ受け取ったものを相手に返す義務(不当利得返還義務)を負います。具体的には、以下のようになります。
販売業者: 消費者から受け取った代金を返還する義務を負います。
消費者: 販売業者から受け取った商品等を返還する義務を負います。
まとめ
数量限定で販売した商品を、完売後に追加で再販売する行為自体が、直ちに違法となるわけではありません。しかし、その際の広告表示が、消費者に「今回限りで販売が終了する」と誤認させるようなものであった場合、特定商取引法に抵触するリスクを伴います。事業者としては、「数量限定」という言葉が持つ影響力を理解し、消費者に誤解を与えないよう、正確かつ誠実な情報提供を心がける必要があります。例えば、追加販売の可能性がある場合には、その旨を明記するなど、消費者との信頼関係を損なわないための配慮が不可欠と言えるでしょう。
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