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『解約しなければ自動更新』は有効? ― 特商法・消契法からみる表示義務とリスク

はじめに
サブスクサービスにおいて、「〇日までに解約しなければ自動更新されます」といった自動更新条項は一般的ですが、その表示をめぐるトラブルは少なくありません。事業者が法的なリスクを回避し、消費者との健全な関係を築くためには、どの程度具体的に説明を記載する必要があるのでしょうか。このコラムでは、特定商取引法、消費者契約法、および関連ガイドラインを基に、自動更新条項に関する広告・通知の具体的な記載方法について解説します。

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初期広告における表示義務(特定商取引法)
インターネット広告は、特定商取引法上の「通信販売」に該当し、同法が定める事項を表示する義務があります。特に、2回以上継続して商品を購入させるような定期購入契約の場合、以下の事項の表示が求められます。
・定期購入契約である旨
・金額
・契約期間その他の販売条件
これらの販売条件は、広告スペースの都合などを理由に表示を省略することが認められていない「必要的記載事項」です。したがって、消費者が「請求すれば別途書面で送付する」という形式で省略することはできません。自動更新の条件は、この「販売条件」の重要な一部であり、最初の広告段階で消費者が認識できるように明示する必要があります。
但し、電子メールやインターネット上のバナー等により広告をする場合は、そのバナー等の中でURLを表示すること等により紹介しているサイト(リンク先)を一体として広告とみなします。
よって、特に表示場所が限定されていない表示事項については、本文、リンク先のいずれに表示してもよいこととなります。
このため、電子メールやバナー等の本文中には必要的記載事項がない場合であっても、そのリンク先に記載がされていれば足りるということになります。

自動更新条項の有効性(消費者契約法)
自動更新条項自体の有効性は、消費者契約法第10条に照らして判断されます。
この条文は、消費者の利益を一方的に害する条項を無効とします。
特に、消費者の不作為(何もしないこと)をもって新たな契約の申込みや承諾の意思表示をしたとみなす条項は、同条の前段に該当する可能性があります。

裁判例などを参考にすると、自動更新条項が消費者契約法第10条に該当するか否かは、以下の要素を総合的に考慮して判断されると考えられます。
・契約締結時の認識可能性: 契約締結前に、顧客が自動更新条項をどの程度認識できる機会が確保されていたか。
・契約内容の有利性: 定期契約であることを理由とする通常価格からの割引額。
・契約の拘束性: 契約の拘束期間の長さや、違約金が定められている場合はその金額の多寡。
・解約の容易さ: 更新を拒絶するための期間(解約可能期間)の長さ、解約手続の容易さ、更新期間前の事業者による注意喚起の有無(*)。
*例えば、解約方法が「平日の特定時間帯の電話のみ」と極端に限定されていたり、解約申請フォームがサイトのどこにあるか容易に見つけられなかったりする場合、事実上、消費者に重い手続き負担を課すものとして、消費者の利益を一方的に害し、無効と判断される可能性があります。

更新前の通知における具体的な記載事項
消費者保護の観点から、特に電気通信事業法や有料放送分野のガイドラインでは、自動更新前の消費者への通知について詳細なルールが定められています。これらは他の業種においても、望ましい実務対応として大いに参考になります。これらのガイドラインによれば、期間拘束と違約金を伴う自動更新(いわゆる「縛り」のある契約)の場合、事業者は更新期間が到来する前に、以下の事項を消費者に通知する必要があります。
・自動更新される旨: 利用者からの申し出がない限り契約が更新されること。
・更新後の拘束と違約金の発生: 更新後は再び期間拘束が発生し、その期間内に解約すると違約金が発生すること。
・更新後の契約期間: 「2年間」など、拘束期間の具体的な長さ。
・違約金の具体的な金額: 期間拘束に反して解約した場合に支払うことになる具体的な金額。
・更新を希望しない場合の手続き: 違約金なしで解約できる具体的な期間(例:「〇月〇日まで」)と、そのための連絡先や手続き方法。
・その他の変更事項: 更新に伴い料金などが変更される場合は、その内容。

また、サブスクリプションサービスで、無料期間や割引期間が終了し、有償または通常価格の契約に移行する場合も、移行時期と支払うこととなる金額をあらかじめ明確に表示する必要があります。

通知の方法に関する注意点
通知は、消費者が内容を容易に理解できる方法で行う必要があります。特に電子メールで通知する場合、以下の点が求められます。
・件名: 広告・宣伝メールに紛れず、重要なお知らせであることが一目でわかるような件名にすること。
・本文への記載: 「自動更新される旨」「違約金が発生する旨」「違約金なしで解約可能な期間」といった特に重要な事項は、リンク先に誘導するのではなく、メール本文に直接記載すること。
・表示のバランス: 料金の割引など利用者に有利な情報だけを強調せず、途中解約で違約金が生じることなど不利益な情報も明確に認識できるように表示すること。
・通知の時期: 違約金なしで解約できる期間が始まる前で、かつ消費者がその内容を忘れない程度に、その期間に近接したタイミングで通知すること。

まとめ
インターネット広告における自動更新条項の説明は、まず、①契約当初の広告段階で、定期購入契約であることや自動更新の条件を明確に表示することが特定商取引法上求められます。次に、②契約の有効性を担保するために、消費者が容易に解約手続きを行えるような仕組みを整えることが消費者契約法との関係で重要です。そして、③更新時期が近づいた段階で、更新の事実、更新後の条件、解約方法と期間などを改めて具体的に通知することが、消費者保護の観点から強く推奨されます。 これらの多角的な要請に応えることで、事業者は法的なリスクを低減し、消費者からの信頼を得ることができるでしょう。

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