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Q&Aで学ぶ譲渡禁止条項 ― 相続・合併・事業譲渡での取り扱い

はじめに
本コラムでは、契約実務上頻出の「第三者への譲渡禁止条項」について、Q&A形式で解説していきます。

Q:契約書に「第三者への譲渡禁止条項」が入っている場合、相続や合併、事業譲渡の際にはどのような扱いになるのでしょうか?
A:まず、譲渡禁止条項は、契約上の地位や権利義務を原則として第三者に譲渡することを禁じるものです。典型的な条文例としては「甲及び乙は、事前の書面による他方の当事者の承諾を得ることなく、本契約により生じた権利及び義務の全部又は一部を当事者以外のいかなる者にも譲渡し、担保に供し、又は承継させないものとする」といったものがあります。

Q:この「譲渡禁止」は、どのような法的効果を持つのでしょうか?
A:民法改正(平成29年)以降、譲渡禁止特約に違反した債権譲渡は有効ですが、債務者は譲渡制限特約について悪意または重過失の譲受人に対しては債務の履行を拒むことができます(民法466条)。また、契約上の地位の移転については、相手方の承諾がなければできないことが明文化されています(民法539条の2)。

Q:相続の場合はどうでしょうか?契約当事者が死亡した場合、相続人に契約上の地位や権利義務は承継されるのでしょうか?
A:相続は法律上の包括承継であり、契約書に譲渡禁止条項があっても、原則として相続人に契約上の地位や権利義務が承継されます。譲渡禁止条項は「第三者への譲渡」を制限するものであり、相続は「法律上の当然の承継」と解されるため、譲渡禁止条項の適用外とされるのが一般的です。ただし、契約内容や条項の文言によっては、相続による承継を明示的に除外することも理論上は可能ですが、実務ではほとんど見られません。

Q:合併の場合はどうですか?
A:合併も法律上の包括承継です。合併により消滅会社の権利義務は存続会社に承継されます。譲渡禁止条項があっても、合併による承継は「譲渡」ではなく「包括承継」とされるため、原則として譲渡禁止条項の適用外です。ただし、契約書によっては「合併による承継も相手方の承諾を要する」と明記する場合もあり、特にM&A契約や業務委託契約では、合併・会社分割による承継に際しても相手方の承諾を必要とする旨を定めることがあります。

Q:事業譲渡の場合はどうでしょうか?
A:事業譲渡は、譲渡会社と譲受会社の間で合意した資産や債務、契約上の地位などを個別に移転するものです。事業譲渡による契約上の地位や権利義務の移転は、譲渡禁止条項の「第三者への譲渡」に該当します。したがって、契約上の地位や権利義務を事業譲渡によって移転する場合は、原則として相手方の承諾が必要です。事業譲渡契約では、譲渡対象となる契約について、譲渡会社・譲受会社・契約相手方の三者間で合意を得ることが実務上重要です。

Q:譲渡禁止条項の例外規定についても教えてください。
A:譲渡禁止条項には、親会社・子会社・兄弟会社など関係会社への譲渡を例外的に認める規定が設けられることがあります。例えば「各当事者の親会社、子会社、又は親会社の子会社へ譲渡する場合を除く」といった文言です。こうした場合、関係会社への譲渡は譲渡禁止の例外となりますが、定義や範囲を明確にしておく必要があります。

Q:譲渡禁止条項に違反した場合、契約上どのような対応が可能ですか?
A:譲渡禁止条項に違反して契約上の地位や権利義務が譲渡された場合、契約解除事由とする条項を設けることが一般的です。例えば「譲渡制限特約に違反した場合には、相手方は直ちに本契約を解除することができる」といった規定です。ただし、譲渡制限特約違反による解除が権利濫用と評価される場合もあるため、具体的な損害や不利益がない場合には慎重な対応が求められます。

Q:実務上、事業譲渡や合併を予定している場合、契約書にはどのような工夫が必要ですか?
A:事業譲渡や合併が予定されている場合は、譲渡禁止条項に例外規定を設けておくことが有効です。例えば「合併、会社分割、事業譲渡の場合は相手方の承諾を要しない」など、事前に想定される承継方法について明記しておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。

まとめ
譲渡禁止条項は、契約上の地位や権利義務の第三者への譲渡を原則禁止するものです。
相続・合併は法律上の包括承継であり、譲渡禁止条項の適用外とされるのが一般的です。
他方で、事業譲渡は個別の契約移転であり、譲渡禁止条項の適用対象となるため、相手方の承諾が必要となります。
実務では、譲渡禁止条項に例外規定や解除事由を設けることで、企業再編や事業承継に柔軟に対応できるよう工夫されています。

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